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★ 遺跡の村カジュラホから空路デリーに戻ると、そこは無味乾燥、埃だらけの街だった。
その晩はゆっくり休み、翌朝ホテルの周辺を散策した。
蜘蛛の巣状に道を配したデリーの市街地を歩いていると、後ろからついてきたインド人が途中で横に並び、
「ウォーキングかい? 朝のウォーキングは健康にいいね」
と話しかけてきた。
これだけでもう怪しさ満点なんだけど、我々はこういうのとかなりの時間を共にしてしまう習性がある。
結局彼と30分も歩いて小さな土産屋に連れて行かれただけなんだけど、その連れて行き方が巧みなんだぜ。
少し一緒に話しながら歩いたところで
「このすぐ裏に面白いローカルマーケットがあるよ」
と急に思いついた風に言うの。
それで連れて行くよ、とは言わずに、
「僕はこのまま用事があるから連れて行けないけど、行き方を教えるよ。ここを真っすぐ行ってね、そうすると・・・」
こちらがよく飲み込めない顔をしていると
「うん、いいよ、途中まで一緒に行くよ」
と歩き始める。
(かみさんと話し続けながら土産屋まで連れて行こうとしているインド人)
しばらく行くと、
「じゃあ、僕はこの辺で。この先はね、あの角を左折してずっと行くとガバメントの団地があって・・・」
また「??」って顔をしていると
「おーけー、しょうがない、もうついておいで」
と、親切っぽく演技しながら歩き出すんよ。
で、途中でなんかケータイで電話したりしてんだけど、あれは
「これから客連れてくから店開けとけよ」
っていう念押しなんだな。
たっぷり歩かされた末に「ここだよ」って言われたのは、ちょうど店主が店を開けたばかりの土産屋なわけだ。
で、大理石の象とか象牙のチェスセットなんて代物を買うつもりはさらさらないので、店をぐるっと一回りすると中で叫んでいる店主を残して外に出る。
「まったくこんなところまで歩かされてよー」
と周りを見ていると今度はトゥクトゥクのにいちゃんが
「欲しいお土産ないんでしょ? 紅茶工場へ連れて行ってあげるよ。いろいろ試飲もできるよ」
と声をかけてくる。
オイラはうるせーなーと思っているんだけど、かみさんは
「紅茶ならいーか」
と話に乗っている。
「ここからどのくらいなの?」
「いや、もうすぐそこ。1分、1分。5ルピーでいいから」
「5ルピーでいいわけねーじゃんねー」
と言いながら結局乗るオイラとかみさん。
そして、これがまた1分どころか、街の中をずんずんずんずん走っていく。
「おい、遠すぎんだろ! 1分じゃねーじゃん!」
「もうすぐそこ!」
って言いながらずんずんずんずん走っていく。
こりゃもうあかんと思ったかみさんはいきなりトゥクトゥクから飛び降り、オイラはこのにいちゃんに後ろから羽交い締めに抱きついた。
キューーーー!!
と急停車するトゥクトゥク。
「おい、なにすんだよー」
「なにすんだじゃねーよ、どこまで行くんだよ!」
「もうすぐそこ、ほらあそこに見える、車の停まっているあの建物だよ」
そう言われ、仕方なく再びオイラとかみさんはトゥクトゥクに乗り込む。
その紅茶工場の前まで来ると、
「あー、まだ開門してないや、9時半からだからあと30分ある」
「お前なー、ふざけんなよ」
「大丈夫、もうひとつ美味しい紅茶のお店があるからそこに連れて行く」
「もういいよ!」
「絶対大丈夫!それで必ず5ルピーでホテルまで送るから。オレは絶対悪い人間じゃないから信じてくれ!」
舌打ちを100回くらいしながらもう一軒の紅茶屋に連れて行かれる。
「ここだよ!」
と降ろされたのはまた普通の小さな土産屋だった。