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★ オルチャからカジュラホに到着したのは予定より約2時間遅れの夜10時だった。
あまり灯りのないホームを改札出口に向けて歩いていると背の高いインド人が
「トゥクトゥクでホテルまで100ルピアで行く」
と声をかけながら一緒に歩き出した。
改札を出てからのトゥクトゥク攻撃に気持ちを備えていただけに、ホームからのアプローチに出ばなをくじかれた。
「どのホテルに泊まるのか知らないのに100ルピーなの?」
「どこでも100ルピーで行く」
大丈夫なやつなのか、こいつ?
でも、駅からホテルまでの距離を考えると100ルピアは妥当だと思えたし、改札外でまたもみくちゃになるのはごめんだったので、彼のトゥクトゥクに乗ることにした。
彼の名前はナンディ(Nandi)。25歳。声はスリムクラブの真栄田のようにしゃがれている。
ホテルまでの道中、そのしゃがれ声でインドやカジュラホの遺跡についていろいろ説明してくれて好感が持てた。
最初に我々は日本人だと伝えたのに、しばらくの間、インドと中国が兄弟関係で仲が良く云々かんぬんと話し続けるので、
「あのね、オレたちジャパンね」
と訂正するとしばらく黙ってから
「チャイナとジャパンは違うのか?」
と聞き返されて今度はこちらが黙った。
日本もまだまだ頑張らなあかん、と中途半端に売れている芸人の気持ちになった。
ホテルはゲートから建物まで少し距離のある造りだったが、トゥクトゥクはゲートで止められた。
その先に進めない代わりにホテルのボーイがゲートまでやってきて荷物を運んでくれる。
たとえホテルの客が乗っていても決して例外のない厳しい階級社会。
それをもちろんナンディ君も自然なこととして受け入れている。
翌日はカジュラホの遺跡巡り。
ナンディ君は朝7時から11時頃、そして極暑時間を避けて午後3時以降の夕方に続きの遺跡を回るという全22遺跡500ルピーでどうだと提案してきた。
それを全部回れる体力的自信はなかったが、500ルピーはとてもリーズナブルに思えたので丸1日ナンディ号(彼が借りているトゥクトゥクの名前がナンディであることに彼はとても誇りを持っている)をチャーターすることにした。
(その6につづく)