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★ いろいろあるときは重なるもので、マレーシアに来てから30年近く公私に渡りオイラの力になってくれた親友のマレー人カイルディンが投獄された。
彼が昔働いていた会社での汚職の疑いで7年の刑。
彼や彼の家族は無実を主張していて現在も再審請求をしているが、彼自身はすでにカジャンにある刑務所に服役中だ。
カイルディンの妹には面会に行くときにオイラも連れて行っておくれ、と頼んでおいたので家族面会の際に同行させてもらうことができた。
オイラにとっても刑務所での面会というのは生まれて初めての経験だった。
写真はカジャン刑務所のエントランスゲート。
このゲートの脇にある面会登録事務所で面会申請の手続きを行う。
事務所の中は役所の待合所のようで、正面に受付カウンターがあり、銀行のように受付番号をもらい自分の順番を待つ。
事務所で合流したカイルディンの妹が彼ら家族分とオイラの分の面会申請書を書いてくれる。
面会申請者全員のIDやパスポートと共に申請書を提出し、しばらく待っていると係官が全てをデータベースに登録し、面会許可が降りる。
カウンターには面会時の服装規定も貼り出してある。
一番右の写真はレース模様のスケスケのワンピース。こんなの刑務所以外でもダメだと思うけど・・・
事務所の外に出ると家族や親類5〜6人が待っていて、一緒に車でゲートを通って刑務所敷地内に入っていく。
広大な敷地だ。
しばらく走っていくと、刑務所の堅固な鉄の扉が見えてきた。
さて、いよいよ面会かと思ったら、家族たちは駐車場脇のキャンティンに入っていく。
まずは朝ごはんを食べるらしい。カイルディンの弟はナシレマやミーをお代わりしていたが、こんな刑務所のキャンティンで面会前によくそんな賑やかにご飯食べられるな、と思う。
食後、ひと段落したら刑務所内へ。
面会棟は入り口のすぐそばにあり、面会前に待合所のカウンターで再度面会許可証などの書類を点検し、さらにケータイなどの持ち物を全てロッカーに納めた上で、隣室の面会室に入っていく。
面会室は左右両側がガラス張りで幅1メートルおきにアクリル板で仕切られたブースが10ずつ並んでいる。
3重に網の入った厚いガラスと鉄のグリルが設置されていて、またそのガラスが汚れまくっているので、相手の姿がハッキリとは見えない。
そこはせめてガラスをきれいにしておこうよ、と思う。
ガラスの前に面会者側、受刑者側それぞれに仕切りのない10メートルほどのカウンターと石のベンチが置かれているシンプルな造り。
面会者はそのベンチに座り、カウンターの上にある1台の受話器越しに受刑者と会話をする。
だから、6人で行っても会話をできるのは常時1人だけ、受話器を回してそれぞれ順番に話をすることになる。
カイルディンは、左側の一番手前のブースにいた。
オレンジ色の囚人服の左胸に「01782」という番号布が大きく貼り付けられていた。
彼は元気そうに笑顔でオイラに手を挙げた。
オイラも笑顔で手を振った。
面会時間は40分。
40分かっきりにこの受話器の音声が遮断され、会話ができなくなる。
会話をしたい家族が多いので、オイラは彼らの後ろでその様子を見守ったり、他の受刑者面会の様子を見たりする。
カイルディン家族の他に3組ほど面会者がいた。
同じように会話待ちだった他の面会者がオイラのところに来て
「何年くらい入っているの?」
「ビジネスケース?」
「あと何年くらい?」
とまるで軽い世間話でもするように話していった。
これは刑務所の面会室でのあるあるなんだろうか。
しばらくするとオイラに受話器が回ってきて、カイルディンと話すことができた。
「元気そうだね」
「ああ、だいぶ体もしまっていい感じだろ?」
「とにかく出てくるまで待ってるから何も心配するな」
「ありがとう、Jun。今、アピールが通りそうなので、来年には出られると思うよ」
「そうか、そりゃよかった。とにかく待ってるよ」
話したい家族も多いのでオイラはそんなところで切り上げて受話器を妹に渡した。
40分経つと、あっけなくお互いの受話器は無音になり、ガラスを挟んで手を振って別れた。
面会室を出ると小さなブースがあり、そこで面会費用や差し入れ品購入の支払いをする。
こんなシステムになっているのか。
駐車場で家族と別れ、オイラは帰路に着いた。
今、自分は自由にどこにでもハンドルを切れるんだな、と不思議な感覚に包まれた。