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2016年05月09日(Mon) 怪物山との格闘

過酷な自転車山登りレース、モンスタークライムチャレンジ2016。

とりあえずその参戦記を今日のひと言に代えさせてもらいます。

5月7日、レース前日の朝にはらまさ夫妻、ユキ、オイラとかみさんの5人ではらまさ号に乗ってタマンデサからペナンに向けて出発。

ちょうど昼頃さしかかるイポーで高速を降り、名物イポーチキンで昼飯だ。

 

激しくエネルギーを消費する山登りレースの前なのでできるだけ多めに炭水化物や糖分を摂取しておかなければならない。

これらの栄養素が体内でグリコーゲンに変わるのには時間がかかるので、当日慌てて飯を食っても体が動かなくなるハンガーノックになってしまうからだ。

夕方ペナンに到着するとそのままスタート地点でもある大会事務局へ。

ここでレース参加登録とともにゼッケンやコースガイドなどをもらうのだ。

他の参加者たちの顔も見て気持ちが盛り上がってくる。

その夜はペナン在住の友人たちとレース前夜飯会。

ここでも麺やご飯を多めに食べ明朝に備える。

.

そしていよいよレース当日。

まだ外は真っ暗な4時過ぎに起床し、再び炭水化物を摂取して準備。

宿から約30分ほどで大会スタート地点に。

オイラはとうとうこの場所に。

完走したい!

でもできるだろうか? 前回みたいに坂の途中でダウンしてしまうだろうか?

もう、気持ちは不安と期待でバクバクだ。

スタートは7時。

回りが少しずつ明るくなってくると選手たちの熱気が辺りを満たし始める。

 

みんな強そう。みんな速そう。ドキドキ。

そして、フラッグオフ!

(クリックするとフラッグオフが見られる動画ページに飛ぶよ)

選手たちはいいポジションを取ろうと一斉に飛び出していく。

オイラとユキも頑張って飛び出す。

コース内に制覇しなくてはならない山が3つ。

最初の山ではなんとかユキから50mほどのポジションでついていく。

頂上に到達し、ダウンヒルは気持ちよく飛ばす。

麓の折り返し地点でヘルメットにチェックポイント通過シールを貼ってもらい、そのまま2つめの山登りへ。

2つ目は1つ目の山より少し距離があるが、まだそれほど疲れはない。

大きく呼吸をしながらペースを落とさず登り切ることができた。

そして2つ目のダウンヒル。

ここでギアを重いギアに変えたときにチェーンが外れる。

自転車を止めてひっくり返し、外れたチェーンを元に戻して再度スタート。

ダウンヒルは好きなので抜いていった人たちをみんな抜き返して麓へ到着。

ここから3つ目の山まではしばらく平坦な道を走る。

体調も良かったし、ペースも下がらず飛ばしていたんだけど、3つ目の山の登り付近にさしかかった三叉路で道に迷ってしまう。

オイラはそのとき周りに他の選手のいない一人旅状態だったのでオロオロするばかり。

しばらく途方に暮れていたらようやくインド人の参加者がやってきたので

「ここはどちらに行くかわかりますか?」

と訊いてみると、

「右折の表示は何も出てないからここはゴーストレートだ!」

とそのまま走っていく。

それならばと、オイラも彼のあとをついてそのまま走っていく。

ほどなく上り坂になり、そこから山登りとなっていく。

ところが、行けば行くほど道は細くなり、人気もなく、およそ大きな大会の賑やかな気配がない。

「ほんとにこっちなのか?」

「こっちだ」

オイラとインド人はどんどんどんどん深い方へ山を登っていく。

幸いまだ山を登る体力が残っているのでグイグイと漕いでいく。

そのうち、農民がカゴを背負って上から降りてきて、おめーらこんなところでなにやってんだぁ?的な顔を向けたので、これは絶対違う!と確信した。

「絶対こっちじゃないよ、戻ろう!」

「そうか?その辺の村人に聞いてみようよ」

「いや、村人に聞くような大会じゃないよ、オレは戻るよ!」

「わかった、じゃあ、戻ろう」

とせっかく登った山を降り始める。

ようやく先ほどの三叉路まで戻ったが、その三叉路の少し先にも別の三叉路があり、もうどこに進めばよいのかまったくわからなくなってしまった。

そこに2人の選手がさしかかる。インド人が

「へい!コースはそっちか?」

「ああ」

2人はなんだかリラックスした気のない様子でそのまま走り去っていく。

「あっちらしい!」

インド人はもう彼らの後を追って走り始めている。

オイラはなんだか釈然としない。

彼ら2人にレース中の緊迫感や高揚感が全くないのだ。

その上談笑しながら走っていた。

決定的にオイラを不安にしたのは彼らの首にメダルらしきものがぶら下がっていたことだ。

それでも他になんの手がかりのない今、オイラは彼ら2人とインド人のあとを追って再び走り始めた。

まだまだペースは落ちないし、心拍数もさほど上がっていないはずだ。

調子は悪くない。

しばらく走っていくと前の3人は予想外の建物に吸い込まれていった。

.

スタート地点だった大会事務局。

.

いつの間にか再びスタート地点に戻ってしまった。

「ここはゴールじゃないよ!」

「違うのか?」

インド人はまだわからない。アホなのか?

「ゴールは山の上だ!彼らはゴールを終えて戻ってきた選手だ!」

オイラは本当にうろたえた。

どうしよう。

インド人は大会事務局辺りにいた人にゴールはどこだ?と聞いているが、要領を得ない。

ああ、こんなところで、こんな感じでオイラの長かった挑戦は終わってしまうのか。

泣きたい。

インド人は誰から何を聞いたのか、再びスタート地点から同じコースを走りだそうとする。

「いや、そっちに行けばゴールから遠ざかるだけだ!」

「でも、あいつがあっちに行って右折すればゴールの方だ、と言ってた!」

あいつって誰だ。

オイラはもう誰も信用できないんだ。

そして、ここで諦めるわけにもいかないんだ。

オイラは自分を信じてここまで来た道を戻る。

インド人にそう伝えると、

「ならば勝手にしろ!」

オイラとインド人はそこで右と左に別れて走り始めた。

悔しい。

残り少ない力を振り絞って、今来た道を戻らなければならないのだ。

でも、負けてたまるか。

走り続けるんだ。

だんだん力が弱くなってペースが落ち始めてきた頃に先ほどの三叉路に戻ってきた。

思い切って残されたもう一方の道に進むしかない。

オイラは意を決してその三叉路を右折する。

しばらくすると警官がたくさん出ている。

オイラは警官に前方を指で指しながら

「コースはこっちでいいの?」

と走りながら尋ねる。

警官たちは、そうだ!とオイラの前方に向って手を振る。

やった!

オイラはコースに戻ってきた!

そこから平坦道を1kmほど走ると今度は壁のような坂が見えた。

大会の標識に

「頂上まで4.8km」

と書いてある。

あと、4.8kmだ。

もう少しだ、頑張れ!オレ!

そう檄を飛ばして激坂に突入していったが、オイラの体力も脚力ももうほとんど残っていなかった。

ギアを一番軽くしてもなかなか足がペダルを踏み込めない。

苦しい。

オイラはそこからなんども道ばたに倒れながら進んでいく。

悪意に満ちた地獄坂で、選手たちは次々にゾンビになっていった。

足が動かなくて立ち止まったままのヤツ。自転車とともにひっくり返ったままのヤツ。

座り込んだまま力なく薄ら笑いを浮かべているヤツ。

オイラのゾンビ化も確実に進行しつつあった。

それでも正気を失わないよう、オイラは少しずつ、少しずつ上って行く。

しかし。

ゴールまであと800mに迫ったところで、オイラの太ももが痙攣して動かなくなった。

激しい痛み。

そのまま横倒しになり、攣りまくる太ももを抱えて道ばたに転がるオイラ。

あー、ヤバい。

ここまで攣ると、もう自転車に乗ることも、歩くことさえもできないのだ。

恐れていたことが長いレースのゴール目前で起こってしまった。

あとたった800mなのに。

ここで断念なのか。。

がっくりとしていたオイラの前を、自転車を引きながら中国人ゾンビが通った。

「攣ったのか?」

「うん、攣ってしまった」

そのゾンビ選手は、背中のポケットから黄色いスプレーを取り出し

「これ使ってみな」

とオイラに差し出してくれた。

オイラはありがとう、とスプレー缶を受け取り、筋肉の固まった太ももに2、3度スプレーする。

冷やっとした感覚が太ももを覆う。

ありがとう、とゾンビにスプレー缶を返すと彼はまたゆったり、のったりと自転車を引いて上って行った。

オイラは恐る恐るその場で立ち上がってみる。

どうだ!

太ももの痛みが嘘のように消えている。

ゾンビがオイラの命を救った。

完走できるかもしれない!

オイラは逸る気持ちを抑え、ゆっくり自転車にまたがる。

今度攣ったら一巻の終わりだ。

左足に負荷をかけないよう、右足一本でペダルに重心を乗せる。

自転車が少し進む。

行く!

オイラはゴールまで行く!

もうそれだけを考えてオイラはペダルを回し続けた。

そして見えてきたゴール。

人が一杯いる。

やった! オイラはモンスターを退治したんだ!

そして、悲願の完走メダルを首に掛けられた。

.

すでにゴールしていたユキは、なんと女子の部で10位入賞という快挙を成し遂げていた。

表彰式ではマレーシアの選手たちに混じって1人登壇する日本人。

 

「YUKI AIHARA!!」

というアナウンスが会場に流れたときは、誇らしくて、うれしかった。

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こうしてオイラたちのモンスタークライムチャレンジ2016は終わった。

帰りの車の中でユキが

「来年はシニアの部入賞目指す?」

と訊いてきた。

ちょっとブルッときた。

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]
もとママ (2016年05月11日(Wed) 14:32)

 武者震いのブルッですか。そんなの無理ーのブルッですか。

Jun (2016年05月11日(Wed) 16:33)

>もとママ<br>わかんない。あの坂を上位選手と競りながらとんでもないスピードで駆け上がる自分の姿を思い浮かべてブルッとなった。ゾンビも夢を見るんだ。