|
★ 早朝5時、オイラが寝ている部屋がノックされた。
すぐに目を覚まして緊張する。
弟がドアを開けると、
「今、病院から電話で脈拍数が30ほど減って呼吸も弱くなったと連絡があった」
というのですぐに洗面着替えをして病院に向かった。
昨日はまだほとんど咲いていなかった武蔵境周辺の桜が一斉に開いていて、どの道も桜のトンネルを作っていた。
「ずいぶん桜が開いたね〜」
こんな時の会話は意外に普通の世間話になるんだな、と思った。
ありがたいことに朝5時半でもそれほど寒くない。
エレベーターで病室のある3階へ上がると、そこは薄暗く押し潰されそうな静寂。
灯の漏れてくるナースステーションまでの廊下がこれほど長かったことを今まで気づかなかった。
病室のベッドに横たわるおふくろは静かな寝息を立てていた。
首が弱々しく脈打っている。
こんなスレスレのところで安定している。
「今朝採血検査をしましたが、全ての数値が普通の人であればすでに亡くなっている状態です。本当に生命力に驚いています。呼吸もお顔も今日はとても安らかですね。心臓が先か、呼吸が先か、ちょっとわかりませんが、今日だと思います」
主治医が病室に来て静かに説明をしてくれた。
きっとおふくろは今の話を聞いていて
「今日?そうはさせてなるものか」
と思っているに違いない。