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★ KLで乗った4台のタクシー、運転手は誰も非常にフレンドリーで饒舌だった。
2人目の運転手からは「KL No.1のナシカンダ屋を知っているか?」と訊かれ、「知らない」と答えると「教えてやる」と目的地までの道を少し回り道して店の前まで連れて行かれた。(写真右上が店で右下がナシカンダ)
こういうことがあるから、マレーシアではアポイントメントの時間に相当余裕を持って出発しないといけない。
そのナシカンダ屋は24時間営業だというので試しにその夜サパーを食べたが翌朝腹を壊した。
3人目は数字に強いらしく、
「KLとPJだけでタクシーが70,000万台もいるんですぜ、旦那。(彼らはよく客を「Boss」と呼ぶが、訳すとこんなニュアンスだろう) 300万の人口にそんなにタクシーがあったんじゃ儲かりませんぜ!」
と説得力ある切り口でタクシー稼業のツラさを訴えた。
4人目の運転手は大柄の43歳で、自分には「タツヤ」という日本名があるんだと誇らしく語った。
「誰から命名されたんだ、その『タツヤ』ってのは?」
「アメリカで会ったコバヤシハジメという日本人ですよ」
「アメリカに行ったことがあるの?」
「向こうの大学に留学してたんですよ。そこで一緒に学んだ友人でね、いい奴だった」
「へー、それで?」
「卒業して私はマレーシアに戻ると石油関連の会社に入社して、数年でコミュニケーションマネージャーにまでなったんです」
「ほうほう、それで?」(オイラはこの運転手の経歴にどんどん引き込まれて行った)
「30そこそこで給料は8,000リンギももらってた。家もローンで購入したけど、親子3人の生活は楽でした」
「そりゃ、高給だ。3人なら楽勝だね。それでそれで?」
「それが10年ほど前に不況でリストラ。70,000リンギの一時金を渡されてバイバイですよ。」
「あらまー、それで?」
「就活をしたけど、どこも厳しくてそんな若造に8,000リンギも払うところはないですよ。いっそレストランでも開こうかと思っても70,000リンギじゃどうにもならない」
「ふん、ふん」
「職安に相談に行ったら銀行口座に20,000リンギあればタクシードライバーのライセンスが発給されるとアドバイスされてね、それじゃあいっそ自分で車を買ってタクシー業をやってみるかと。だからね、この車は会社のものじゃない、私のものなんですよ」
「へー、そうなんだ。道理できれいに手入れしてあるね」
「収入は月に3,000リンギくらい。水物なんで倍稼ぐ月もあれば、収入のほとんどない月もあったり起伏が激しいんですよ、タクシーは。まあ、それでも贅沢しなければ家族3人なんとか生きて行くには充分な金額です」
「そうだね、個人タクシーだから実入りは全部自分だしね」
「だけどね、やっぱり会社に入ってもうちょっと給料をもらいたいと思ったんですよ。家族にももう少しいい暮らしをさせてやりたいってね。それで、また就活をした」
「そう、頑張るね」
「でもね、ある会社で面接官にハッキリ言われましたよ。なんでうちの会社がタクシーの運転手を雇わなきゃならないんだってね。まあ、3,000、4,000リンギくらいなら口がないこともなかったけど、やっぱり前もらっていた給料の金額が下がるのは嫌だったんで、なかなか決まらず悩んでいたんです」
「そうなんだ」
「そうしたらね、ある日かみさんが『あんた、タクシーの運転手を続けたらいいじゃないの。運転手って言ったって、会社に属して会社の言うように走らされるんじゃなく、自分で好きなように走れるんだよ。頑張れば頑張っただけお金が入る自分自身のビジネスじゃないの。あんたは自由なんだよ。また無理して会社勤めすることなんかないさ』って言うんですよ。
それでね、私も考えたんですよ。こいつの言うことも一理あるぞ、そうだこれは私だけのビジネスなんだってね」
「それで就活をやめたんだね」
「そうです。それから10年、こうしてタクシーを運転しているんです。頑張ってお金を貯めてね、今度は別のビジネスで起業しようと思ってるんですよ」
「素晴らしいね。それにしても、なかなかできたいい奥さんだね」
「はは、ええ、いいかみさんです。私と11歳も離れてるんですよ。結婚したのは私が30で彼女が19歳だった」
「若い奥さんをもらってラッキーだったね」
「ええ、ラッキーでしたね。19歳のほんのガールでね。まだ何にも知らない娘でしたよ。うれしかったな、はは、ははは」
まだ10代だった「何も知らない」マレー人の娘が、社会の荒波に揉まれて挫折しかけた旦那を力強く支えた。
人は苦境に立っても、前向きに考えるだけでその苦境と思えた状況を希望の舞台に変えることができる。
小さなタクシーの大きな夢の物語。
ほんと、その通りですね。すべては考え方次第なのだろうと思います。私もまさにそんなことを考えていたこの頃です。いつも楽しい話題をありがとうございます!
>ゆうちゃん<br>こちらこそJalanJalanしてくれてありがとう。うれしいです(笑)。