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★ 自分自身を「バンコクからの出張者」という位置づけにすると、20余年に亘って見慣れたKLもちょっと新鮮に感じる。
タクシーに乗ってもテンションが上がり、後部座席の真ん中から体を乗り出し、運転席と助手席のシートに両肘を乗せた格好で運転手と話しまくる珍しい自分がいる。
「ところで、お客さん、どこから来なすったね?」
「日本だよ」
「日本人かい!日本人にしてはフレンドリーだねー! 旅行かい? 仕事かい?」
「仕事だよ。KLの景気はどうだい?」
「大企業はそこそこやっていけるけどね、中小企業は散々さ。アッシも(ここはこう訳した方がしっくりくる人だった)少し前まではトレーディング会社で働いていたんだけどね、会社が倒産して今は一時的にタクシーの運転手をやってるよ」
「そうか、マレーシアも大変だな」
「お客さん、マレーシアに長く住んでたんならワイフは2人ぐらいいるんだろ(笑)?」
「わはははは、いねーよ、あんたじゃねーよ(笑)」
「いや、アッシはほんとに2人いるんでげすよ、ワイフが」
「••••••。」
「だ、だけど、確か2人目のワイフを持つときは1人目のワイフの承諾がいるんじゃなかったっけ?お伺いを立てたの?」
「いや、それが浮気がばれて修羅場になってね、当人同士が会って二人でいろいろ話したのよ、アッシ抜きで。それで『じゃあ、もう二人ともワイフに』ってことで向こうで結論出ちゃってね、アッシの知らない間に。がはははは」
「笑い話かよ」
「2人目のワイフは5年くらい日本に留学してて、日本企業で働いていたから日本語ペラペラよ。今度紹介するよ」
「いいよ」
「まあ、そういうなよ。名刺あるかい?」
「うん、あるけど」
「これはアッシの名刺だ」
「うわ、立派な名刺持ってるね」
「だろ? 今度連絡してくれよ、ワイフと一緒にカラオケ行って日本の歌、歌おうよ! ワイフ、日本の歌上手いよ。気に入ったら、もらってくれよ」
「いらねーよ!」
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といった会話をしながら宿泊先のホテルに到着したのでした。