|
★ 社会人になった頃はよくこの言葉を実感した。
広告代理店は広告主のことを「クライアント」と呼んでクライアントの宣伝部長は神でもあり、鬼でもあり、絶対服従の相手だと教わって育った。
実際に上司や先輩からそう言われたわけではないんだけど、クライアントのお言葉に震え上がったり、社内がパニックになったりするのを日頃から目の当たりにしていれば子供心に(もう大人だったけど)
「これは大変な存在なのだな」
と肝を冷やさずにはいられないわけだ。
ところが、海外に出るとクライアントの社長が神でもなんでもないことに気付く。
出向先のマレーシア人のボスや同僚たちは、日系のクライアントの社長だろうと対等に話をする。
それを今度は日常的に見るからだ。
こう書いてくると日本の代理店とクライアントの関係を批判しているような空気になるが、そういうことではない。
むしろ、ビジネスとしての効能を比較すると、結果的には日本の考え方の方が実利がある場合が多い。
対等なビジネスパートナーと思って付き合っていると、クライアントの理不尽に思える言動にストレスがたまる。
宣伝部長も自社内で評価が高止まりであれば平和だが、そう甘くはない。窮地に追い込まれれば発注先に無理を言ったり、理不尽な責任を負わせたりする。
それが人間だから。
そうなると
「こんな理不尽なことを言われる筋合いはない!」
と反発心や敵対心が生まれ、関係悪化、ビジネス消滅ということがよく起こる。
一方、「クライアントは神」と育てられた人々は、
「神なんだから好き勝手言うのは当たり前」
と思っているから、その言動に驚かない。
だからショックによるストレスが少ない。
舌打ちをしながらも冷静に
「どうしようかね、これ」
と解決の道を探そうと粘る。
結果的にビジネスは長続きし、生涯獲得利益は大きくなる。
昔の上司たちもクライアントが本当に神だと思っていたわけではない。
そう思っていればどんな難題や窮状も冷静に乗り越えられる、という知恵ではないだろうか。