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★ 「もしもし、あ、立教会の山森さんですか? マレーシアの立教会で山森さんがマレーシアからタイに行ったと伺いまして、タイに行くので是非お会いしたいんですが・・・」
初老の男性の声でこんな電話を受けたのは一昨日の夕方だった。
予定がなかった昨晩、私はこの電話の主とアソークにあるシェラトングランデのロビーで午後7時に待ち合わせた。
「私はハゲ頭なのですぐわかります」
と伝えてあったので、できるだけハゲ頭をひけらかすように前屈みにロビーを歩き回っているとケータイに電話があり、
「今、ウェスティンホテルの7階のロビーにいます」
シェラトンと言ったんじゃないんかい!
そもそもスーパー人見知りの私は、こういう初対面で用件の曖昧な面談が苦手。なんだか面倒くさいなぁと思いながらスカイウォークをウェスティンホテルに向かって歩いた。
7階のロビーにいたのは、その声で想像していた通りの、少し浅黒く華奢でシワの多い60過ぎと思しき男性だった。
よれよれのグレーのスーツ。下に着る黒いTシャツの裾をパンツに入れて思い切りベルトで締め上げていた。
「あ、どうもすみません、お忙しいのに」
と彼が口を開くと、強烈な酒の匂いが私を包んでむせそうになる。
近くのタイ料理屋でテーブルを挟んで向かい合うと彼はこう切り出した。
「私は和歌山県の白浜新聞(仮称)でコラムを書いているんですが、ご存知ですか?」
はい、もちろん、知りません!
「ちょっと取材をしたいのですが、山森さんはタイで何をしているのですか?」
私は心の中で大きなお世話じゃとつぶやきながらもマレーシア、タイの簡単な経緯を説明する大人の対応をとった。
「はー、なるほど、脱サラってやつですね?」
だ、脱サラって・・・
「それで、脱サラしてここに骨埋めるんですか?」
この方、初対面で相当失礼ですよね。私はその白浜新聞ってのはなんなんじゃいと思って
「その白浜新聞で何かアジアの特集記事でも組むんですか?」
と尋ねてみた。
「いや、特集っつぅことはないんですが、コラムのような」
「あなたがそのコラムを担当されているんですか?」
「いや、担当っつぅか、私の書いたものがまだ載ったことはないんですわ」
「は? どういうことですか?」
「いや、何か書いて送ろう、思って。だけどそりゃあんた、載せるか載せないかは向こうが決めることですしね」
と言いながらキャシャシャシャと顔をしわくちゃにして笑った。
ナンじゃい、そりゃ。ただの投稿おじさんかい。
それでも私は何か共通の話の糸口を掴もうと頑張った。
「私はこういう仕事をしてきましたが、あなたは何をしてらっしゃったんですか?」
「私も広告です。山森さん、会社はどこだったんですか?」
「私は第一企画という会社で、その後アサツーと合併してADKとなりましたが」
「はぁ、聞いたことあるような、ないような、うーん、知らんなぁ・・・」
「山森さんは広告会社で仕事は何をやっていたんです?」
「媒体局でテレビ番組の担当をしていました」
「媒体? 何ですか、媒体って?」
この人、絶対広告屋じゃない。
その後も頑張って糸口は探すが、話が全く膨らまない。
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会ったこともないヘンなおっさんとタイ飯を食いながら行き詰まっている。
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そう思うとなんだか今私は何をやってるんだと情けなくなってくる。
本当にいったいこのとっつぁんは誰なんだ?
何のために私を訪ねてきたんだ?
「立教会の誰に私を紹介されたんですか?」
私は今更ながらずっと疑問に思っていた質問をぶつけた。
「いや、誰ということはないです」
「え、じゃあどうして私のことがわかったんですか?」
「それは、あの、もらった資料に出てたので」
「なんですか、その資料は。どこにあったのですか?」
「いや、マレーシアの佐久間さんに会った時に。あ、佐久間さん、知ってます?」
知りません!
私は、最初の電話でこの人がてっきり自分の大学の先輩だと思い込んでいた。
でも彼はそんなことひと言も言っていなかったのだ。
どこかで入手した名簿から私の連絡先を見て連絡してきたのだ。
「今日はホテルはどちらですか?」
「いや、決まってません。どこか安い宿を手当てしてもらえませんか?」
ヘンな雲行きになってきた。
「安い宿はカオサンというところにたくさんありますよ」
私はカオサンまでの行き方を彼に教えてあげた。
この辺が潮時だと思い、私は会計を済ませると彼をBTS駅まで連れて行く。
タイに来たならタイ飯と言っておきながらタイ飯はどうも合わないとか、居酒屋に行きたいとか、もっとビール飲みたいとかボヤイている彼を無視して電車に乗せた。
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誰っ?
はー、お疲れ様でした。私も以前はできるだけ誠実にお相手しようなんて健気なこと考えていましたが、ある時からすっぱり止めましたよ。いい人だなんて思ってもらわなくていいと思ったので。もう若くもないのに。ぶつぶつ。
>もとママ<br>もとママもこういうことが時々あったんだな。確かにな。オイラももう自分の時間が貴重になってきたからな(笑)。
Junさん、あなたは人見知りじゃなくて、お人よし。<br>今度から知らない人について行ってはダメですよ。メッ!!
>miko<br>これからは気をつけます(笑)。でもシュークリーム食べに行きましょうと言われたら自信無し。