特集!Pudu刑務所
クアラルンプール中心部、Jalan Pudu沿いに100年の間その存在を静かに横たえてきたPudu刑務所。刑務所のKL郊外移転に伴い、その永い歴史を閉じた。そして今、100周年を機に世俗との行き来を頑なに拒んできた高い塀の内側が公開されたのである。
「あの中は一体どうなっているのだろう」 JalanJalanは、常々Jalan Puduを伊勢丹方面に車を走らせながらその重厚な扉を横目で眺めていた。繁華街の中心にある牢獄は、かえって不気味さを漂わせる。このPudu刑務所は開所以来100年を迎え、昨年KL郊外スンガイブロの先に全ての機能、囚人達の移転を完了させた。そして「空っぽ」になったこの施設をマレーシア政府は、なんと一般市民、観光客に公開することにしたのだ。テレビでもキスシーンはカットしちゃうけど、こういうものはどんどん公開しちゃうのである。そういうよくわからないところが好きなのである。
刑務所の中を見に行く...というのはなんか、人の家の便所を見に行く...といった気配がないでもなく、「ちょっと遺跡を」みたいにあまりオホホ的に人には言えないのだが、JalanJalanはとにかく何処へでも行くわけであった。
その昔、死刑囚によって描かれたと言われる刑務所の塀の壁画は、森や湖、山々に青い空、白い雲といった理想郷を表現しているが、月日と共にその色合いも褪せ、随所にペンキのはげ落ちたところが見える。どんなに美しい風景でもその上に鉄条網が張り巡らしてあると素直にきれーだなーとは観賞できない。ちなみにこの壁画を描き上げた死刑囚は、特赦を受け釈放という話を聞いたことがあるが、真偽のほどを知らない。
開き切った「開かずの扉」を通り抜け中に入るとすぐに入場券販売窓口がある。その横には、鉄の棒が3本突き出てカラカラ回るチケットのモギリがあっていきなり遊園地のようだ。入所料は、大人12リンギ、小人7リンギ。けっこう高いね。
モギリを通るとすぐに展示室。何が展示してあるのかというと、囚人服とか看守服とか手錠とか足枷とかで大笑いしてしまう。この写真にある刑務所全体の模型は、獄舎がどういうレイアウトになっているのか一目瞭然でわかる。建物は、X型になっておりそれぞれ麻薬犯用、凶悪犯用、少年用、外人用などとすみ分けがされている。
展示室を出ていよいよ獄舎へ向かう。この日は、学校の社会科見学に訪れたマレー人の小学生達がたくさん列をなして歩いていた。右の写真は、X型獄舎の中心部。ここから四方へ腕を伸ばすように各房が突き出ている。
建物は、3階建てで各階には、ハリウッド映画のようにズラーッと房が並んでいる。左の写真はその2階部分だが、上下からある程度見渡せるように中央部がネット状の吹き抜けになっていて、これも映画のままだ。各房とも檻状の扉が開放されているので中に入れるが、壁から膝の高さ位のところにコンクリートの板が突き出ていて、これがベッドとなる。それにしてもこんな息苦しいところに一人で閉じ込められたら...と思うと汗が出てくるが、後で聞いたらここに4、5人で入るそうだ。だってベッドがひとつ.....なのだが、二人はこのベッドの下に入り込み、残りはベッドの上に膝を抱えて眠るという環境。しかもこのコンクリートのベッドにタオルケットが一枚づつ支給されるのみ。
やっぱり刑務所たる物、居心地は劣悪じゃなくてはだめなのね。
映画の刑務所の中にも必ず「調達屋」みたいな囚人がいて煙草を売ったりするけど、このPudu刑務所にもそういう奴が必ず登場するらしい。もちろんお金で売買するのでそういうことを知ってる奴は、入所する時などにお金を隠し持って来るんだそうだ。んで、どういうところに隠して来るかというと、入れ歯の上とかゴム草履の側面を切ってその中に差し込んで来たりといろいろと趣向を凝らす。限られた環境の中でもできるだけいい生活をしようとし、金を持ってる奴がエライというのは塀の中も外も同じなんだな。
さて、それじゃ飯はどんなものを食っているのかというと右の写真だ。これは一般囚の昼飯だが、ご飯に焼き魚を乗せ、もやしとカレー汁、デザートのパイナップルが赤い型押しのトレイに盛られる。朝飯は、厚切りパン一斤とコーヒー。晩飯は、昼飯+パン一斤。それでもって、一般囚と死刑囚では献立が違う。例えば、昼飯は焼き魚の代わりにチキンが乗せられ、おかずも一品多い。朝や晩もパン一斤ではなくジャムサンドイッチになる。最後のささやかな贅沢。でもあんまり考えているとゾーッとしてくるね。
左の写真は、共同風呂。といってもお湯につかるわけじゃなくて中央に見える黒いタンクに貯めた水をホースで浴びるだけ。
写真右は、囚人用の中庭。ここが唯一のリクリエーションの場になるわけだ。バドミントンコートや噴水がある束の間の憩い。これがアメリカならバスケットコートになるわけだが、囚人の間でもやっぱり人気はバドミントンというわけなんだな。
写真左は、大空の下の共同便所。便器がこれだけ一列に並ぶと異様な光景だ。そして朝ともなるとこの「便器への階段」に囚人達がズラリと列を作ったのだろう。前の奴のケツを見ながら。あー、なんか考えただけでもお腹が痛くなってきたから次へ進もう。
この先を歩いていくとあの屋根の上のトンガリ帽子、モスクがある。そうか、それでもやっぱりここはイスラムの国。囚人も祈りを欠かさないのだ。しかし、屋根に上れないように張り巡らした鉄条網と鉄のグリルがはめ込まれた窓。きっとこんなモスクは、マレーシアにもここだけなんだろう。今まで見慣れてきた美しいモスクとはかけ離れた悲しいモスクだった。
ところでイスラムの国には様々な刑罰があるのは知られているね。ただ単に牢屋にブチ込まれるだけじゃなくて、
いろいろ痛い事されちゃったりするんだよね。石ぶつけとか百叩きとか。この左の写真はなんだろう。これはね、「Hit Ad.のイスラム教の広告事情のケツ出し坊やがそのまま大人になった」写真ではないよ。ムチ打ちの受刑者だ。木の櫓にしっかり固定され看守に頭を抑えられ、ケツだけ覗く布をあてがわれて最初の一鞭を待つ身の毛もよだつ一瞬だ。
さて、そんなものを見ながらX型獄舎の最後の棟に向かう。そこはひときわ暗く異様な妖気に包まれていた。死刑囚独房と死刑執行室からなるD棟。ここは特別に15分ほどの「サウンドプレゼンテーション」と称した音響ショーをやっていて、死刑執行までのストーリーや後ろ手に手錠を掛けられ、頭に布を被せられた死刑囚を取り巻く会話を生々しく不気味な音響と共に真っ暗な部屋で聞かせる。そして絞首刑台の床、すなわち地獄への扉がバタッと抜け落ちる恐ろしい音と共に本物の絞首刑台とロープが闇の中に浮かび上がるという何とも信じられない趣向なのだ。本物のつい最近まで使ってた死刑台。これは恐いでー。
人間は誰も刑務所に入るために生まれてきたわけじゃないし、まして死刑台に上ろうと人生を歩み始めるものはいない。なのに何故か道を踏み誤ってしまう人がいる。独房の壁に落書きを見つけた。筆記具の携帯は許されないし、落書きも許されないのに。どうしても書きたかった言葉....FREEDOM。人間にとって掛け替えのない「自由」と引替にしてでも欲しかったもの、やりたかったことがあったというのだろうか?
ちょっと気持がズシンとくるPudu刑務所ツアーだが、珍しい体験ができる。刑務所の門をくぐって外へ出る時、小学生の息子が「お父さん、僕は少し恐かったよ」と言った。娑婆は、いつものように人と車が行き交っている。晩飯は、「好きなところで好きなものを食べよう」いうことになった。
に戻る