福建歌謡の歌姫「呉淑萍」(小萍萍改め)
小萍萍という名前を聞いたことがあるだろうか。物語は今年の5月初め、JalanJalanに届いた1通のメールから始まった。
「JalanJalanさん、はじめまして。JalanJalanは小萍萍を知ってますか。
小萍萍は福建歌謡の歌姫です。私は、この小萍萍にまいってしまった日本人です。
日本にはこの福建歌謡や小萍萍の熱烈なファンがたくさんいますが、
その情報には限りがあります。どうか彼女の最新情報を取り上げてください。」
なんなんだ。小萍萍というのは。JalanJalanは全く知らなかった。何だか分からないが、とにかく「知らない」ということは嫌なので、早速、手当たり次第に調べてみる。すると、小萍萍というのは「シャオピンピン」と読むのだということが分かった。シャオピンピン.......。しかし、ややこしいことに今はこの小萍萍という芸名を改め、呉淑萍という本名で活躍しているという。ウースーピン.....。(うっ、忘れていた右手が疼く.....) また、福建歌謡というのは、中国は福建語で歌われる歌謡曲だということが分かった。そしてその福建歌謡の聖地とも言うべき拠点はここクアラルンプールだというのである。
日本にはこの福建歌謡をこよなく愛するファンが多くいるらしい。また、この呉淑萍(小萍萍)も熱きアイドルとして多くの日本人から愛されているらしい。それはすでに呉淑萍の萍をとって「萍道」と名付けられた深くせつない「道」らしいのである。
JalanJalanは早速レコード屋に走る。小萍萍いや呉淑萍のアルバムありますか。店員は素早くJalanJalanを「Chinese Pops」の棚の前に誘導し、一枚のアルバムを手に取った。あったぁ。これが呉淑萍かぁ。この人ここで人気ありますか。「まあまあありますよ。好きですか。そう言えば、今度チェラスのショッピングモールの催しで歌うはずですよ。」
そうか、ショッピングモールの客寄せか。結構せつない営業もしてるんだなぁ。とにかく、チェラスへ行こう。行って本人に会って来よう。なにか「萍道」の謎が解けるかも知れない。JalanJalanは突撃取材を決定した。
客寄せプロモーションの会場は、チェラスレジャーモール、日時は5月10日の夜8時からということが分かった。チェラスというのはクアラルンプール郊外の新興都市で、中心部から車で約20分。15年前の吉祥寺といった感じだ。
当日、JalanJalanは早めに仕事を切り上げ、7時半にオフィスを出発、チェラスへ向かう。レジャーモールは、ハイウェイ沿いにそのけばけばしい電飾を発散している。モール周辺はナイトマーケットが道一杯に露店を並べている。到着時刻は8時10分。カメラバッグを引っ掛け、地下駐車場から駆け上がる。1階に上がるとちょうど拍手が沸いた。司会者に紹介された呉淑萍がワゴンセールの真ん中に特設された小さなステージに上がってきた。(写真左、手前は特売シャツのワゴン)
スポットライトこそないが消防服の生地のような銀色のミニのワンピースと銀色のローヒールがモール内の照明を受けて浮き立つ。痩身で背が高く、スラリと伸びた脚線が眩しい。アルバムジャケット同様、頭にちょこんと乗せたサングラスはトレードマークだろうか。あどけない表情の中に何とも言えぬ気品があり福建歌謡の歌姫というに相応しい美しさだ。観衆はどういう連中なのかと少し見渡すために舞台の裾へ回り込み、音響のお兄さんにゴメンネと手刀を切るとそこから首を出してみる。
やはりチェラスという場所柄中国系が多いが、特に若い層ということもなく「買い物客」一般家族連れという風情だ。カメラを構えているのが2人、あれはファンだろう。吹き抜けになった2階や3階の手すりから覗き見下ろしている人々を含めると観衆は全部で3〜400人と言ったところだろうか。1曲目、「今夜的風吹得好冷」の甘苦しいイントロが流れ始めると拍手は大きくなり、小さく微笑んだ呉淑萍は舞台中央に進む。音響のおにいちゃんはカラオケテープの再生ボタンを押すと仕事も一区切りついたらしくタバコに火をつけた。そこでおにいちゃんに今日のステージの曲順を聞いてみる。まさか教えないだろうなぁと思いきや彼は自分の大事な進行表をJalanJalanに渡してくれたのである。
それによると1曲目がこの
「今夜的風吹得好冷」、2曲目が「誰教我是眞的愛イ尓」、3曲目が「抱緊一點」そして最後が「好像愛上イ尓」、合計今晩は4曲歌うとなっている。これは最新アルバムの「今夜的風吹得好冷」から厳選したんだと「雅歌(YA-KO)唱片制作有限公司」(このアルバムのレコーディングプロダクション)から来ているこのにいちゃんは得意げに言った。「~~今夜的風吹的好冷.......」曲の方は最後のサビに入っている。呉淑萍はさらにせつなそうに眉間にしわを寄せ、切々と「今夜の風のように冷たく、愛を求めて疼く女心」を歌い上げる。2曲目、3曲目と歌ったところでステージに司会者が上がってきた。
呉淑萍もまたにこやかな表情に戻る。二言三言、会話をかわすといきなり呉淑萍が観衆の中に割って入り、客の中から3人をステージに連れ上げる。どうもちょっとしたゲームを始めるようだ。結局一人一人始めさせられたのは早口言葉だった。
「呉淑萍は小萍萍、小萍萍は呉淑萍、呉淑萍が小萍萍で小萍萍が呉淑萍なら呉淑萍は小萍萍で小萍萍は呉淑萍」
このニューアルバムにも新旧二つの名前が併記されているように、今彼女は呉淑萍として新たなステップを踏み出そうとしているのである。そのためこうした名前のプロモーションもきっちりやっておかねばならない大事な時期でもある。会場は大いに笑いに包まれ、沸き上がった。
そして新生「呉淑萍」をこれからも宜しくで締めくくる。
最後の曲「好像愛上イ尓」のイントロが始まる。呉淑萍の顔から次第に笑みが消え、歌の世界に入っていく。「遥遠い星空に浮かび上がってくるのは愛しいあなたの面影......」という出だしを噛みしめるように歌いだす呉淑萍。この「せつなくて爽やか」な歌唱が、呉淑萍の持ち味なのではなかろうかと、今日初めて彼女の歌を目の前で聞く JalanJalanは揺り動かされるのであった。
ワンコーラス目が終わると彼女は
1Mほどの特設舞台をゆっくりと降り始め、今までの声援に感謝をするように最前列の観衆達と握手しながら歩く。ツーコーラス目が始まっても彼女は差し出された手に一つづつ一つづつ丁寧に手を返していく。こういうところでは観客も照れくさいのか、ちょっと申し訳なさそうに彼女の手を握り、満足そうにヘヘッと笑う。最後のサビとなる 「我己愛上イ尓......」ではステージに戻り「あなたをこんなに愛しているのに打ち明けることが出来ない.......」という想いをこれまた「せつなく、さわやかに」まとめ上げていくのであった。みごとみごと。パチパチパチ。
手を振りながら舞台の裏に下がる呉淑萍と入れ代わりに黄徳偉という男性歌手が登場してきた。彼は呉淑萍のニューアルバム「今夜的風吹得好冷」の中で2曲デユエットしている。激しく動き回り、1曲目から舞台を掛け降り観客と握手し捲るので、JalanJalanは「なんなんだ、こいつは」と少し圧倒されながらもあまり関わりあっている暇もないのですぐさま舞台裏の呉淑萍に会いにいく。
呉淑萍は、舞台裏にこれもにわか特設されたキャンバス地のテントの中で荷物整理をしていた。
「呉淑萍こんにちはっ」と二人でなだれ込むと呉淑萍はびっくりしたようだったが、我々が日本人だと分かると何か遠来の客をもてなすようににこやかに微笑んでくれた。
Jalan 「日本にはあなたのファンが沢山いるんですね」
呉淑萍 「いえー、そんなにいませんよ。でも日本からもファンレターを貰ったことはありますよ」
Jalan 「そうですか、日本のファンはどうですか?」
呉淑萍 「私は日本人好きですよ。とても穏やかで紳士ですよね」
Jalan 「えぇ、まぁ。そうですかねぇ」JalanJalanモジモジする。
「これからの活動予定は?」
呉淑萍 「今はこれ(ニューアルバムのポスターを指して)です。今年は全国をこうして回って歌っていきます」
Jalan 「日本にいるファンに何か一言」
呉淑萍 「うーん、そうですね。私はいつも元気で歌っていますから応援してください。あっ、それからマレーシアにも来てください」でどう?と大きく笑う彼女。
Jalan 「今晩の予定は?」JalanJalanナンパを試みる。
呉淑萍 「家に帰るわよ」JalanJalan振られる。
Jalan 「じゃ、どうもありがとう。頑張ってね」JalanJalan別れを告げる。
呉淑萍 「OK! No Problem. Good Night.」呉淑萍も一人で会場を後にする。

最後にJalanJalanはホームページビジターおみやげ用のサインを貰い、Masと記念の1枚を撮ってバイバイする。サインの名前は Merissa Goh と書いている。そうかメリッサちゃんというのか。謎はどんどん解き明かされる。うーん、それにしてもとっても気さくでナイスな女の子であった。
我々はやれやれという感じでまたのっそりと地下の駐車場へ向かう。
9時半。帰り道どこで飯を食っていくかなどとJalanJalanの総務会議をしていると、踏み入った地下駐車場の薄暗い空間をやけに光るものが動いている。目を凝らすとなんだ、舞台衣装にジージャンを羽織っただけの呉淑萍が一人で淋しく歩いているではないか。そうか、マネージャーのお供なんかないのか。我々の車は出口付近だったが、彼女は結局どの車にも近寄らずに徒歩で出口を通過していく。そうか、しかも歩きで営業してんのか。JalanJalanは車を出すと駐車場の出口の外で一人佇む呉淑萍に車の中から再び声を掛けた。
「おくるよっ」
「わぁ、ありがと。でも今ハンドフォンで家族がつかまったから大丈夫。迎えに来てくれるから。どうもありがとう」(写真右、右手にハンドフォン)
「OK! それじゃ、おやすみ!」再び振られるJalanJalan。でも彼女は最後まで爽やかに我々の車に手を振ってくれた。さようなら、呉淑萍。ありがとう呉淑萍。きっとあなたはもっともっと多くの人々に愛される素晴らしい歌手になっていくでしょう。頑張れ、福建歌謡の歌姫、呉淑萍!!
呉淑萍Visitorプレゼント!!
プレゼント企画は5月31日に締め切りました。たくさんのご応募ありがとうございました。厳正な抽選で6名の当選者を選び、このページで発表します。どうぞ、お楽しみに!
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