特集!世界一の「盆踊り大会」
クアラルンプール近郊、シャーアラムにある松下スポーツセンターにて7月13日、第20回盆踊り大会が盛大に催され、約27,000人のマレーシアの人々、そして当地に在住する日本人達が共に手を取り、"日本の夏"に酔いしれた。
このスタジアムは当地日本企業の老舗"松下グループ"が所有するもので、400mトラック、芝生が美しいセンターフィールド、
そして屋根付きのスタンドを有する、公式競技が行える規模のかなりりっぱな総合競技場だ。ここで盆踊り大会が行われるようになって5年、初回から数えると第20回目の開催になる。この大会はクアラルンプール日本人会の主催で、その傘下にある日本人学校、そして日本大使館の協賛のもと開催されているが、当地にあるほとんどの日系企業が寄付金を募り、まさしく日本人をあげてのビックイベントと言えるだろう。
自称"世界一"のこの盆踊り大会は、既に現地の方々の認知も高く、元々娯楽の少ないこの国の若者にとっては毎年楽しみな祭典となっている。
世界一の規模というのは、会場に一歩足を踏み入れた途端にうなずけるものがあった。フィールド中央に40m四方はあろうかという巨大な櫓(やぐら)が組まれ、そこから数百mの提灯が連なっている。この広いグランドで幼い頃
の記憶にあるあの"盆踊り"がどのように展開されるのだろうか。初めて目にする私には想像がつかなかった。"夏祭り"の記憶をたどると、盆踊りというのはメインの"夜店巡り"に彩りを加え、お祭り気分を盛り上げてくれる脇役だったように思う。一番の楽しみはやはり金魚すくいであり、ヨーヨー、綿菓子であって、テキヤのおにーちゃんとの"ふれあい"だったと思う。しかし今、目の前にあるこの大きな舞台は紛れもなく"主役"の座を揺るぎないものにしているように見えた。そして数時間後、そんな昔の祭りへの思いを振り払うように3万人近い若者によって目の前の空間が埋め尽くされる事になる。
メインフィールドの奥には100m四方程のサブグランドがあり、そこに40軒ほどの"夜店"が軒を連ねて賑やかに声を
あげていた。「タコエキ〜!!」「やきすば〜」客を呼び込んでいるのも、中で仕込んでいるのもローカルのスタッフだ。それぞれの店の暖簾をよく見ると「竹葉亭」「稲ぎく」「宗像」等、いずれもKLにある和食レストランのもの。今日は本家を閉めての出張サービスらしい。日本の祭りでは見る事のないだろう「にぎり寿司」「天ぷら」のメニューがあるのもおかしい。また逆にローカルにお馴染みの「ソトンボール(イカ団子)」「カヤボール
(白アン入りの小判焼き!?)」ってのが並べられているのもご当地ならではだ。一番奥のコーナーで子供に囲まれ、ヨーヨー、パンチボールを手渡していたのは、JalanJalanをご愛顧頂いている
「唐金さん」だった。ラバー関係の会社で当地に進出されており、半導体関連からヨーヨーまで作っているという。この日が一年で一番忙しいそうだ。「早めに食べ物を買って食べておいた方がいいですよ。これからどの店もパニックになるから」との助言を頂いたが、正にその通りだった。漸く日も暮れてきた7時半頃には、この"夜店街"はすき間もない程の人だかりと化していた。
威勢のいい呼び込み太鼓によって7時過ぎに
大会の幕は開いた。櫓の上で思いきり太鼓を打ち鳴らしているのは、日本人学校中等部3年の男子生徒全員だ。太鼓を囲むようにして、やはり櫓の上でゆかた姿で愛らしく踊っているのは、同じく女子生徒の皆さん。中学までしかない日本人学校では、これが最後の夏の想い出になるのだろう。
櫓の下ではPTAのお母さん方が一番内側に輪を作り、踊りのお手本役となっている。一ヵ月程前より学校に集まり、特訓を続けてきたらしい。
そして、「大東京音頭」の大音響によって盆踊りが始まり、"輪"がゆっくりと動き始めた。
この盆踊り大会はローカルに向けて告知はするものの、日本人による、日本人の為
の催しだと思っていたが大間違い。一番楽しんでいるのは現地ローカルの若者達だ。「東京音頭」「花笠音頭」と続くうちに輪は二重、三重と広がり、見様見真似に満面に笑みを讚えながら踊っている。彼らには日本人特有の"照れ"などない。スタンドや周りの芝生の上で高見の見物をしている日本人とは対照的に、知らぬもの同士が手を取り合って、この瞬間を最大限に楽しんでいる。
8曲踊っては少し休み、また8曲という風に3回繰り返したが、輪の大きさは回を追う毎に膨れるばかり。大分県日田市から応援に来た"祭りのプロ"の方々もその
乗りの良さには圧倒されていた。でも、日田市の方々の「祇園囃子」の和太鼓、笛の音色は何かホッとするものがあって郷愁の念にかられるものがあった。
最後の"ダンシング・タイム"にはローカルの若者達がつくる踊りの輪は幾重にも重なり、フィールドを越えてトラックにはみ出さ
んばかりとなった。輪の中に入ってみると皆、実にいい顔をしている。この国に来て、彼らがこんなに底抜けに陶酔している姿を始めて見た。踊りの方も3回目ともなるとPTAに負けていない。合いの手をいれるタイミングも数万の群衆が一つになっている。絶叫しているようだが、ひとつになっている。こんな話をすると盆踊りごときでなんて思われるかも知れないが、しばし感動で体が固まってしまった。日本の盆踊りでは決して味わう事のできないものを、異国の若者達に与えられた。世界一の盆踊り大会と言ってはばかることはないだろう。
"日本の夏"に思いを馳せるというよりは、この国の横顔に触れたような気がして、さわやかで素敵な一夜だった。 Terimakasih banyak!!
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