スポーツの秋に二つの日馬親善
スポーツの秋、と言ってもそれは日本の10月の話で、常夏の国マレーシアには秋なんてないんだけど、気は心。10月のある日射しの強い日に日本とマレーシアのおじさん、若者、子供達がそれぞれ汗を流し、健康と友情を確かめ合った。まずは、かのデジタルソフトボール軍団「JalanJalan」とクアラルンプールの南、バンギにある大学UKMのソフトボール部との恒例親善対抗試合。昨年、チーム「JalanJalan」の発足とともに始まったこの対抗戦は、今年が2回目。前回は大学生チームに、出来立てのおじさんチーム「JalanJalan」がもう、完膚無きまでに打ちのめされ、試合後はへたばって声も出なかったのを覚えている。しかし、リーグ1シーズンを戦い抜いた「JalanJalan」はもう前のようには行かないぜ。雪辱を期して望む面構えのおじさん達なのであった。
試合前の「整列」「挨拶」からもう日馬でシキタリが違う。日本の場合は、お互い一列に向かい合って「れいっ!」ってのが高校野球で見るお決まりなんだけど、マレーシアの場合は、両チームが一塁線上と三塁線上に並び、ホームベース上で一人ずつと握手をしながら交錯し、
一塁線上と三塁線上を歩いていく。でも、これ、けっこういいんだよね。高校野球もこれどうかなぁ。左の写真では赤いユニフォームがUKM、三塁線上から一塁線上に向かうのがJalanJalanチーム。
今回は勝たねばならぬ。写真右は、先発メンバーのオーダー表提出間際まで悩む監督Mas。
しかし、敵もなかなか本腰を入れている。ネット裏では部のマネージャーが、スコアブックをしっかりと準備し、傍らにはビデオカメラまで用意してある。う〜ん、そこまで研究しつくされてしまうのか、JalanJalan。それともスカウトする選手を捜しているのかUKM。それにしても運動部のマネージャーってのは、マレーシアでもやっぱり女の子がなるんですねぇ。むさ苦しい男どもの間に紅一点、可憐に見えますねぇ。そう言えば、この日、JalanJalanのマネージャーはランカウイへ遊びに行っちゃってました。
そしていよいよプレイボール。先攻JalanJalan、守備につく赤いUKM。一気に緊張は高まり、アンパイアのコールを待つ。こうして守備位置に着く選手達の顔ぶれを見ると、去年見た顔もいるし、初めて見る顔もいる。卒業して社会人になったものもいれば、初々しい新入部員もいるのだろう。JalanJalanも同じだ。帰国や転勤した選手もいれば、新たに赴任してきた選手もいる。大学生活と駐在生活は似たような年月かも知れない。そしてどちらも人生の大切な一ページとなっていくのだ。

写真左は、ペナンのソフトボールリーグでスラッガーとしてならし、今季からKL転任の「ペナンのTOM」。打ち気満々の風情でありながら、なぜかキャッチャーミットの中に白いボールが納まっているのが不思議だ。しかしこの日はTOMさんを始め、JalanJalan打線は打ちまくった。打者一巡を含む猛攻でUKMは為すすべもない。しかし、UKMも打ちまくる。さすがに体育会(そんなのあるのか?)ソフト部現役選手達だ。打者一巡を含む猛攻でJalanJalanは立ちすくむ。とにかく両チーム打って打って打ちまくる打撃戦。そうして今年はとうとうJalanJalanが打ち勝った。26対16としまりがないと言えばしまりのない試合だが、日馬親善だからそんなものなのだ。

長い熱闘を終えたUKMとJalanJalanの選手達は握手を交わしながらお互いを労い、UKMの誘いでピッチャーズマウンドを中心に大きな輪を作った。それぞれが肩を組み合うとUKMのかけ声を合図に声を合わせ、足を踏み鳴らす。これもマレーシアのスポーツマン達のナラワシなのだろうか。でもこれもとってもいいんだよ。高校野球も試合終了後、校歌斉唱の代わりにこれやらないか。
そして全員集まって記念写真。ほんとにいい汗かいて、楽しかったね。握手を交わしながら別れの挨拶を掛け合っているとUKMの部長さんが「またいつでもやりたいときに電話してよ。僕らはいつでも集まるよ」と手を挙げた。僕らも「そうするよ〜」と手を振る。こんな交流がいつまでも続いていったらいいなぁときっと誰もが思ったことだろう。
さてお次は、若きナカタ、若きロナルドを擁する日馬ジュニアサッカーチームの親善試合。しかしこれがまんざら冗談でもない。マレーシアのジュニアサッカークラブ「UA2」は、ワールドカップクラスの選手を養成するためには早くからボールに慣れること、とマレーシア政府が肩入れする「ファースト・タッチ・プロジェクト」のプロ選手養成強化クラブなのだ。だから子供達のユニフォームやシューズも全てアディダスがスポンサーとなっているし、コーチは全員マレーシアの元代表選手達。プロのようだ。日本チームは日本人学校のアスタカ・サッカークラブ。昨今のサッカー人気もあり、クラブ員は200名近くもおり、入れない児童がウェイティングしているほど。コーチは昔取った杵柄のお父さんコーチ達。
小学生クラブと言ってもれっきとした国際試合。試合前の入場、記念写真、整列後の握手など、それはワールドカップのそれと全く変わらず、それがまた可愛くて笑ってしまう。日馬ともチームは学年別に編成されており、同学年同士の総当たり戦で優勝チームを決める。ゲームは10分の休憩を挟んで30分ハーフ。なかなか本格的だ。もともとサッカーはマレーシアで最も人気のあるスポーツ。ジュニアサッカーとは言え、大勢のマレー人が観客としてグラウンドの周り一帯に集まって応援の声をあげる。しかも相手はワールドカップ初出場を成し遂げた「ジュプン」の子供達。期待は激しく盛り上がるのだ。

試合が始まると応援席も声を張り上げる。ボールを奪えば「よ〜しっ」となり、シュートがゴールをはずれると「あ〜」というため息の合唱となる。同じ観客席に日本人とマレー人のお父さん、お母さんが混じり合っているので、それが交互して面白い。とてもほのぼのとしている。しかし、ゲームの方はなかなかどうして大したものだ。足を引っかけられて大きくすっ飛び、そこに転がったままの選手。それでもホィッスルが鳴らないと、ムックリと立ち上がりまた走り出す。なんだか、W杯のミニチュア版を見ているようだ。試合展開も右に振ったり、左に振ったりしながら敵陣深く入り、センタリングを上げてくる。
左のジュニアは、チームでも一番小さいくらいだが、そのボールさばきやスピードが見事でコーチ達が一番期待している選手。膝くらいまでありそうなボールをうまくさばいてドリブルしアスタカジュニア達を抜いていく。まさに「UA2」のロナルドだ。
結局試合の方はほとんどの学年で技とスピードで優るマレーシアチームが勝利を修めた。試合が終わると仲良く一緒に記念撮影。もしお互いにずっとサッカーを続けていけば、この先の人生のどこかでまた一緒にプレーすることもあるかも知れないね。それはもしかしたら2014年か2018年のワールドカップかも。日本から遠く離れたこの国で自分達と同い年の友人としたサッカー。そんな小さな体験が心に残ってくれたらいいな。暑い暑い10月のマレーシアでそんなことをボーっと考えるお父さんであった。
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