MSCとは具体的にどこにできるのかというと、KL中心部(写真上部赤丸部分)に位置するKLツインタワービル(KLCC)を北の起点としてKL新国際空港(KLIA)(写真下部正方形部分)に至る東西15km、南北50kmの細長い廊下(コリドー)状のエリア。ここに世界初の情報通信ハブを建設しようというわけだ。このエリアの中には、電子政府の概念を持つ新行政都市プトラジャヤとインテリジェント都市サイバージャヤが、開発建設される。
このサイバージャヤには、マルチメディア産業、R&Dセンター、マルチメディア大学、マルチメディアを通してビジネスを進めたいという多国籍企業の事業本部が設けられることになっている。左の写真は現在のサイバージャヤ。| 4つの基本要素 | 内容 | |
|---|---|---|
| 法的枠組みとソフト・インフラの構築 | サイバー法の制定 | 電子商取引やマルチメディアに関する事業を促進する法律の制定。具体的には著作権、デジタル署名、コンピューター犯罪、遠隔医療、 電子政府等に関する法律。 |
| 税制その他の優遇措置の実施 | 最長10年間の所得税免税など様々な税制上の優遇措置、研究開発助成や有望な技術会社を上場させるための特別証券取引所の設置など。 | |
| 教育政策の施行 | 情報技術技能の開発を優先したカリキュラムの編成、マルチメディア関連科目及び科学、工学、情報技術、経営などの講座の設定など。 | |
| 情報技術とマルチメディア に関するインフラの構築 | デジタル化された大容量の次世代通信インフラの構築。テレコム・マレーシアによる光ファイバー網の構築。投資額は2007年までにUS$20億以上。 | |
| プロジェクトを総合的に 実施運営する機関の設置 | MDC(マルチメディア開発公社)の設立。プロジェクトに関する一括窓口として全ての対応をする。MSCの擁護者、推進者、パートナーとなる。 | |
| 環境に優しい国際的環境 とライフスタイル | 人と自然と技術が調和した潤いのある生活空間「ガーデンコリドー」を創出するための物理的環境の構築。 | |
| アプリケーション | 内容 | |
|---|---|---|
| 電子政府 | 公務員、企業、市民が共にマルチメディア技術を活用し、サービスの利便性、効率を高めることによって、市民や企業との関係を劇的に向上させる。従来の官僚的思考様式は根本的に変わり、政府は市民のニーズに、より密着した対応ができる。 | |
| 多目的カード (スマートカード) | 国民登録カード(IC)、運転免許証、パスポート、健康カード、電子キャッシュ、デビッドカード、ATMカード、クレジットカードなど、たった1枚で世界初の全国的多目的カードの大実験場とする。当初は、MSCとKLの利用者200万人に発行する。 | |
| 遠隔教育 (スマートスクール) | 根本的な教育制度の改革。生徒は自分のペースで学習を進めるが、自分の年齢集団から離れない。教師は「知識の提供者」ではなく「学習の援助者」となる。学習の新たなコンセプトは「自らによる方向決定」となる。 | |
| 遠隔医療 | 医療情報を統合し、医療システム全体にわたってサービスと医療品の円滑な流れを可能とするため、個々人が自分の健康を管理できるようになり、従来の医療サービスの提供、利用方法が劇的に変わる。 | |
| 研究開発拠点 | 主要なマルチメディアR&D企業、地元の大学、公的研究機関の提携を促進し、マルチメディアの研究開発に取り組んでいる数多くの小規模企業の発展を支援する。 | |
| 国際的遠隔製造網 | 製造業と製造サービスのハブをMSC内に設ける機会を企業に提供し、企業の国内外の事業拠点間の連携を図り、R&D、設計、エンジニアリング、生産管理、調達、流通、物流支援などが受けられるようにする。 | |
| 国境を越えたマーケティング | 企業がマルチメディア技術を利用してマーケティング・メッセージ、顧客サービス、情報製品を開発し、それらを多文化、多国籍の顧客に提供するための環境を創出する。 | |
KLからシンガポールへ抜ける南北ハイウェイを南下し、10分ほど走ったカジャンインターチェンジでハイウェイを降り、20kmちょっと走るとそこがMSCの中心部。そこに至る道の両脇はまだまだパーム林が鬱蒼としていて世界最先端のデジタルシティを想像するのは難しい。林を切り開いて赤土が露出する開発地域を見ながら更にパーム林の中に入って行くと、このプロジェクトを管理、推進するMDC、マルチメディア開発公社のゲートが見えてくる。
IT、マルチメディア、最先端シティと頭に浮かべながらゲートをくぐると、そこにはマレーシアでは何の驚きもないリゾートホテル風、シャレー風平屋建ての社屋が公園に囲まれるように(写真右)建っている。とてものんびりとした風情だ。正面玄関(写真左)の車係りもリゾートホテル風装束を身にまとい、「ここはMDCですか?」と恐る恐る訊ねる私に対し、「そうですよ、MDCですが」と怪訝そうに応えてくれる。
玄関を入って行くとそこはロビー。受付嬢が二人、ソファーが2セット、室内にはMSC関係のポスターなどを貼り付けた展示物が立てられている(写真右)。とても簡素。だがとても落ち着くのは、人と先端技術の調和をうたったMSCのコンセプトが生かされているのかも知れない。
このロビースペースからオフィスや会議室などへは渡り廊下の軒下を通りながら進んでいく。全てオープンエアなのだ。そしてその廊下の間々にはきれいに手入れされた中庭がある(写真左)。まるで日本庭園のような趣。何だかゆっくりとくつろいだ気持ちになってくる。地中からは花に混ざって光ファイバーが突き出ていて、夜になると幻想的な雰囲気を作るのだろう。こんな使い方もいかにもMSCらしい。ところがこの長屋も一旦それぞれの部屋に入ると、先端技術がちりばめられた設備が施されていて、そのギャップに驚かされる。
会議室も全ての席にPC関連の接続端子が敷設されていてどこからでもプレゼンテーションが行えるようになっている。
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