特集! MSCは今・・・

レーシアが世界中の情報・通信産業から一躍脚光を浴びることになったMSC(マルチメディア・スーパー・コリドー)プロジェクト。この世界初の試み、MSCとはいったい何なのか、そして今、このMSCはどうなっているのか。JalanJalanは、このプロジェクトを実質的に指揮するMDC(マルチメディア・ディベロップメント・コーポレーション)のタンスリ・オスマン会長以下MDC幹部と関連企業との対話集会に潜入。この画期的なプロジェクトの現状を分かり易くレポートするっ! 

「マレーシアは世界中への贈り物として、マルチメディア・スーパー・コリドー(MSC)を提供いたします。人為的な制限なく、マルチメディアのあらゆる可能性を開花させるため、私たちは世界最良の環境を構築しようとしています。MSCは地球規模の大実験場であり、そこでは可能性の限界が探求され、情報化の新時代に生き、働き、遊ぶ新たな方法が実験できます。私たちは、世界中の企業と高度情報化地域を結び合わせる多文化的な「ウェブ」を作りたいと思っています。そうした通信網は、利用するもの全てに共栄をもたらすことでしょう。」
----- ドクター・マハティール・モハマド(マレーシア首相) -----





MSCの概要

MSCの位置づけ
マレーシアは、戦略的な開発マスタープランを5年ごとに策定して経済成長を予測しながら舵取りをしてきた。これらの計画が最終的に目指しているのがビジョン2020で、マレーシア長期開発の具体的な目標を定めた国家計画と言える。これは2020年までにマレーシアを先進国(高度に開発され、成熟した、知的に豊かな社会)にしようとするマハティール首相の挑戦でもある。
このビジョン2020を達成する戦略として、また知的・戦略的リーダーシップを発揮して情報化時代を担う計画としてこのMSCを位置づけ、着手することになった。計画の主旨として、「技術革新を促進する環境づくりに投資し、国内外の企業が全く新しい技術開発に到達できるようにするためのグローバルな情報技術者の提携をすすめ、相互に事業の拡大成功を図る機会を提供する」ものとしている。要するに世界中の企業に対し、情報化ビジネスを開発拡大する全ての環境をMSCが提供しますよ、ということになるわけだ。完全実現予定は20年後の2017年。

MSCのロケーションと開発計画
MSCとは具体的にどこにできるのかというと、KL中心部(写真上部赤丸部分)に位置するKLツインタワービル(KLCC)を北の起点としてKL新国際空港(KLIA)(写真下部正方形部分)に至る東西15km、南北50kmの細長い廊下(コリドー)状のエリア。ここに世界初の情報通信ハブを建設しようというわけだ。このエリアの中には、電子政府の概念を持つ新行政都市プトラジャヤとインテリジェント都市サイバージャヤが、開発建設される。このサイバージャヤには、マルチメディア産業、R&Dセンター、マルチメディア大学、マルチメディアを通してビジネスを進めたいという多国籍企業の事業本部が設けられることになっている。左の写真は現在のサイバージャヤ。

<開発目標>
・先端技術を持つ世界的な企業をマレーシアに
 誘致すること。これで国内産業を発展させる。
・生産性の高いインテリジェント環境を提供する
 マルチメディア・ユートピア。
 モノとサービスの付加価値を高め合う
 「バリュー・チェーン」が形成され、
 世界に普及していく。
・マルチメディアに関する技術、インフラ、法律、制作、
 システムを総合的に備えたエリア。
・発明、研究、マルチメディアに関する開発を行うための大実験場。
・情報化社会の最先端を行くグローバル・コミュニティ。



MSCを支える4つの基本要素とその内容
MSCプロジェクトを成功させるためにマレーシア政府は次の4要素をその柱に据えている。法律や教育などの整備、マルチメディア関連のインフラ整備。それからプロジェクトを一元的に管理、推進する新機関の設置。これだけ大きなプロジェクトだと現行のお役所が分担しても責任の所在が曖昧になってバラバラになるのは目に見えているからね。最後に不動産開発を含めた物理的な環境の整備だ。要するに「ソフト」と「ハード」をバランスよく作り上げていきますよ、というわけだ。

4つの基本要素内容
法的枠組みとソフト・インフラの構築サイバー法の制定電子商取引やマルチメディアに関する事業を促進する法律の制定。具体的には著作権、デジタル署名、コンピューター犯罪、遠隔医療、 電子政府等に関する法律。
税制その他の優遇措置の実施最長10年間の所得税免税など様々な税制上の優遇措置、研究開発助成や有望な技術会社を上場させるための特別証券取引所の設置など。
教育政策の施行情報技術技能の開発を優先したカリキュラムの編成、マルチメディア関連科目及び科学、工学、情報技術、経営などの講座の設定など。
情報技術とマルチメディア
に関するインフラの構築
デジタル化された大容量の次世代通信インフラの構築。テレコム・マレーシアによる光ファイバー網の構築。投資額は2007年までにUS$20億以上。
プロジェクトを総合的に
実施運営する機関の設置
MDC(マルチメディア開発公社)の設立。プロジェクトに関する一括窓口として全ての対応をする。MSCの擁護者、推進者、パートナーとなる。
環境に優しい国際的環境
とライフスタイル
人と自然と技術が調和した潤いのある生活空間「ガーデンコリドー」を創出するための物理的環境の構築。



MSCを大実験場として応用展開するために選出された7つの主要アプリケーション
さて、実際に情報通信、マルチメディアの一大都市を造ろうと言ったって、マレーシアに「秋葉原」を造ろうという話ではない。実際にそれらの技術を応用、駆使した街を造ろうという計画なのだ。その為には実際に人間の生活に必要な基本的な機能から始めようというわけで、まず7つの応用問題が選抜され、設定された。まるで「シムシティ」そのままだ。まず、政府。政府にマルチメディアを応用すると何ができるかというとこれが電子政府、とこんな感じ。病院に情報通信技術を応用すると? 答は遠隔医療、とこんな具合だ。これら7つの主要命題に先端技術を応用しながら「人間と自然と技術が共存、繁栄する街」、これがMSCというわけだ。以下は、その7つの主要アプリケーション。ここからこの「デジタルタウン」はスタートする。

アプリケーション内容
電子政府公務員、企業、市民が共にマルチメディア技術を活用し、サービスの利便性、効率を高めることによって、市民や企業との関係を劇的に向上させる。従来の官僚的思考様式は根本的に変わり、政府は市民のニーズに、より密着した対応ができる。
多目的カード
(スマートカード)
国民登録カード(IC)、運転免許証、パスポート、健康カード、電子キャッシュ、デビッドカード、ATMカード、クレジットカードなど、たった1枚で世界初の全国的多目的カードの大実験場とする。当初は、MSCとKLの利用者200万人に発行する。
遠隔教育
(スマートスクール)
根本的な教育制度の改革。生徒は自分のペースで学習を進めるが、自分の年齢集団から離れない。教師は「知識の提供者」ではなく「学習の援助者」となる。学習の新たなコンセプトは「自らによる方向決定」となる。
遠隔医療医療情報を統合し、医療システム全体にわたってサービスと医療品の円滑な流れを可能とするため、個々人が自分の健康を管理できるようになり、従来の医療サービスの提供、利用方法が劇的に変わる。
研究開発拠点主要なマルチメディアR&D企業、地元の大学、公的研究機関の提携を促進し、マルチメディアの研究開発に取り組んでいる数多くの小規模企業の発展を支援する。
国際的遠隔製造網製造業と製造サービスのハブをMSC内に設ける機会を企業に提供し、企業の国内外の事業拠点間の連携を図り、R&D、設計、エンジニアリング、生産管理、調達、流通、物流支援などが受けられるようにする。
国境を越えたマーケティング企業がマルチメディア技術を利用してマーケティング・メッセージ、顧客サービス、情報製品を開発し、それらを多文化、多国籍の顧客に提供するための環境を創出する。



界中の情報通信、マルチメディア関連企業は、自社内の研究室や会議室で、自分たちの開発した技術をどのように人間生活に応用していくことができるか、またしていくべきかをシュミレーションしている。だが実際には都市ぐるみでそれを実験、応用するなどという荒唐無稽な機会を提供してくれる者はなかった。そして今、マレーシアのMSCがそれを提供する。マハティール首相の言う世界中への贈り物とはそういうことなのだ。そして、先端企業を誘致し、投資を促し、マレーシアも利益を享受しながら共に繁栄しようという壮大な試み、それがMSCだ。これは、2020年までにマレーシアを情報通信のハブとし、情報化社会のリーダーとして新たな時代を切り開こうとするマハティール首相のしたたかな挑戦でもある。

MSCの現状

KLからシンガポールへ抜ける南北ハイウェイを南下し、10分ほど走ったカジャンインターチェンジでハイウェイを降り、20kmちょっと走るとそこがMSCの中心部。そこに至る道の両脇はまだまだパーム林が鬱蒼としていて世界最先端のデジタルシティを想像するのは難しい。林を切り開いて赤土が露出する開発地域を見ながら更にパーム林の中に入って行くと、このプロジェクトを管理、推進するMDC、マルチメディア開発公社のゲートが見えてくる。
IT、マルチメディア、最先端シティと頭に浮かべながらゲートをくぐると、そこにはマレーシアでは何の驚きもないリゾートホテル風、シャレー風平屋建ての社屋が公園に囲まれるように(写真右)建っている。とてものんびりとした風情だ。正面玄関(写真左)の車係りもリゾートホテル風装束を身にまとい、「ここはMDCですか?」と恐る恐る訊ねる私に対し、「そうですよ、MDCですが」と怪訝そうに応えてくれる。

玄関を入って行くとそこはロビー。受付嬢が二人、ソファーが2セット、室内にはMSC関係のポスターなどを貼り付けた展示物が立てられている(写真右)。とても簡素。だがとても落ち着くのは、人と先端技術の調和をうたったMSCのコンセプトが生かされているのかも知れない。

このロビースペースからオフィスや会議室などへは渡り廊下の軒下を通りながら進んでいく。全てオープンエアなのだ。そしてその廊下の間々にはきれいに手入れされた中庭がある(写真左)。まるで日本庭園のような趣。何だかゆっくりとくつろいだ気持ちになってくる。地中からは花に混ざって光ファイバーが突き出ていて、夜になると幻想的な雰囲気を作るのだろう。こんな使い方もいかにもMSCらしい。ところがこの長屋も一旦それぞれの部屋に入ると、先端技術がちりばめられた設備が施されていて、そのギャップに驚かされる。

会議室も全ての席にPC関連の接続端子が敷設されていてどこからでもプレゼンテーションが行えるようになっている。
 この日MDCの主催で開かれたMSC対話集会では、テレコムマレーシアによる通信インフラの整備(MSC、KL、セランゴールを取り囲むISDN、ATM、光ファイバーの敷設等)、7000haのサイバージャヤ、4581haのプトラジャヤ開発計画、交通網の整備などが順調に進められているとの報告がなされ、MSCへの企業参加が更に呼びかけられた。現在のところ、MSCプロジェクトへの参加を申請した企業数は209社。そのうち現段階で参加承認が下りた企業数が129社。欧米企業では、マイクロソフト、サンマイクロシステムズ、オラクル、ヒューレットパッカード、DHL、ロータス、インテルなどなど。日系企業は、NTT、NEC、富士通などなどそうそうたる一流企業がこのMSCに進出してくる。まさに敏腕営業マン、マハティール。一国の政府と世界企業とのジョイントプロジェクトとしてはやはり最大級のものになるだろう。今後この計画が、マレーシアの国民に、そして世界の人々にどのようなベネフィットをもたらしていくのか。21世紀もマレーシア、やはり目が離せない存在になりそうだ。




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