イナイの話



レー人のお宅を訪れるとその庭には南国情緒豊かな果実の木、マンゴ、パパイヤ、バナナ、ランブータンといったものをよく見かけることができる。そういったスター性を持った華々しい木々の陰でナンの変哲も面白みもなく風に揺れている木もある。写真右の木、イナイがそれ。一見見落としそうなこの木、実はマレーの人々にとってとてもゆかりのある大切な木なのだ。では、それがマレーの人々にどうゆかりがあるのか、どう大切なのか、JalanJalanお得意の突撃取材でご紹介してみよう。今回お邪魔したのは、バツーケーブにほど近いゴンバックの町に住むラシッドさんご一家。実際にこのイナイをどのように使うのか手順を追って見せてもらうことになった。まず、イナイの木からその葉っぱだけを茶摘みのように摘んでくる。これを写真左にある石のすりつぶし器でゴーリゴーリゴーリゴーリとつぶしていく。これが簡単そうで実際にやってみると石のローラーをうまく扱えずに大変難しい。でも、ラシッドさんの奥さんは手慣れた手つきでゴロゴロゴリゴリとイナイの葉っぱをあっと言う間にすりつぶしてしまう。
それでもって、このイナイの葉っぱをすりつぶすとどうなるかというのが、この右の写真だ。葉っぱの内部から少し水分も出て、ちょっとペースト状の緑の固まりになる。そしたら左の写真を見てみよう。これを一掴みしてまず、指サックのように指と爪を覆うように乗せていく。ある程度粘りけがあるのでうまく伸ばして被せることができるのだ。指に被せ終わったらそのまま15分から20分くらいほっておく。匂いをかいでみるとこれが何とも爽やかでいい香りなのだ。こうして待っている間、指はいったいどうなっているんだろうと少しドキドキする。時間が来たらイナイを被せた指をササッと簡単に水で濯ぐ。ちょうどイナイの葉っぱが被さっていた部分だけが薄いオレンジ色に着色されている。

その状態が右の写真だ。写真で指を見せてくれているのがご主人のラシッドさんだ。これは日本で言えばいわゆるマニュキアのような化粧の一つなんだけど、主にマレーでは、結婚式などの時に新婦さんが指先にイナイで着色する。だからこれは特にマレー人の女性にとってあこがれのお化粧というわけなんだ。ただ最近ではラシッドさんのように男性がファッションでやったり広範囲で使われることが多くなったようだ。マレーシアの町々を歩いていると指先をオレンジ色に着色したマレー人を見かけることがあるでしょう。




左の写真はいわゆるペティキュアの付け方だ。すりつぶしたイナイの葉っぱを上手く爪の上だけにのっけてしばらく待つ。皮膚でも爪でも同じようにきれいに色が乗ってくる。これもサッと水で濯ぐとハイできあがり。右の写真のようにきれいに着色される。これは一度着色するとだいたい2、3ヶ月は色が消えない。ラシッドさん達の話によると、このイナイには殺菌効果があり、切り傷、擦り傷など怪我をしたときにその上にこのイナイの葉っぱを乗せておくと傷が消毒されてあっと言う間に治ってしまうという。まさにマレーの人々にとってイナイは、魔法の木なのだ。
それから圧巻だったのが、ラシッドさんのお父さん、80歳。得意げに取った帽子の下には、あのイナイ色の髪の毛が! そう、このおじいちゃん髪の毛をイナイで思いっきり染めちゃったのだ。見事なオレンジ色。これは最近マレー人のお年寄りの間でも大変流行っているそうだ。なぜお年寄りかというと、この色、白髪だと一番きれいに染まるんだ。それにしてもおしゃれだね〜、マレー人のおじいさん、おばあさん達。ちなみにこのおじいちゃん、お孫さんが58人、ひ孫が39人という大ファミリーのドンだ。日本じゃもうそんな大家族いないよね。背筋もシャンとして毅然とした姿は、とても80歳には見えないよ。戦時中日本軍が駐留していた頃、そこで働いていたこともあって、片言の日本語で僕らに話しかけながら、懐かしそうな目をしていたのが印象的でした。
 と、いうわけでマレーの人々にとって大切なこのイナイの木。今度マレーシアを歩くときは、ちょっと注意して見てみたらどうだろう。きっとそこここのお庭に植わっているのに気がつくはず。マニキュアにしてもペティキュアにしても天然素材だから体にも地球にもとても優しい。南国マレーシアのおしゃれを楽しんでみちゃうというのも悪くないかもよ。





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