ユックリン温泉

の起源は3千万年の太古、ジュラ紀に遡る。地殻の割れ目から染み出た天然の水はマレーシアの南北に横たわる花崗岩の熱によって温泉となった。草木に覆われた石灰岩の山あいで薄い湯気のベールをまとった天然の露天風呂。そこは、時を越えて迷い込んだ現代のジュラシックパークなのかも知れない。


・ユックリン(Yook Lin)温泉へのアクセス
クアラルンプール(KL)からまずは位置的にも日本の「仙台」という感じのマレーシア第4の都市イポー(Ipoh)を目指そう。 行き方にはいろいろあるけどまず一番安いのが長距離バス。KLのプドゥラヤ・バスターミナルから片道約350円。所要時間は3時間から3時間半くらい。列車の旅で旅情を満喫というのであればマレー半島縦断のマレー鉄道で。KL中央駅からバタワース行きで3時間位。一等車、約1500円、二等車、約800円。そんなまどろっこしい事してられるかという人は、スパッと国内線空路で30分。イポー空港まで約2800円。地元の人に最も一般的なのは南北ハイウェイを自分でドライブ。きちんと制限速度を守ってもイポーのインターチェンジまで約2時間、200キロ。両側に広がる油椰子の林やゴム林、パパイヤ林が切れ目なく続き、南国マレーシアの気分満点だ。とにかく何はともあれイポーへ行ってしまう。イポーから隣町のタンブン(Tambun)までタンブン通り(Jalan Tambun)で10分から15分。目指すユックリン温泉は、この小さな小さな町タンブンの町外れにあるのだ。

・イポー
イポーは、マレー半島北西に位置するペラ(Perak)州の州都。ジョホール・バルに次ぐマレーシア第4の都市だ。一帯に錫(スズ)鉱床が広がり、昔から錫の町として栄えてきた。市内のキンタ渓谷は世界一の錫産出高を誇っている。中国系マレーシア人の構成比が65%と高く、広東料理には定評がある。これもスズ鉱山の労働者として1900年前後から多くの中国人が渡ってきたゴールドラッシュならぬティンラッシュによるのである。と話は堅いがイポーは実は、美人の産地としても名高い。日本も秋田美人などと言うがここにもイポー美人というのがきっちりあるのである。それからイポーへ行ったら必ず食べたいのがイポーチキン。この蒸し鶏のチキンライスはモヤシ炒めと併せてつとに有名。ホクホクプリンの鶏肉に甘辛ソース、パリパリシャッキリ歯触りの旨味深いモヤシ。なんでもないメニューにこんなに感動するなんて、と目から鱗が落ちる美味さなのだ。

・タンブン
町と言っても道の両側にせいぜい100メートル位商店が軒を並べているだけだから、カーオーディオのスイッチをいじっている間に通り過ぎちゃうのだ。気を付けよう。充分なお店がないくせにペラ特産のポメロ(Pomelo)のお店は両側に何軒もある。このポメロというのはザボンに似た柑橘果実で、普通のポメロとサワーポメロというのがある。普通のポメロは果肉が黄色っぽく、味に刺激がなく甘ったるいだけで物足りないが、サワーポメロは程よく酸味があり日本人にはこちらがお薦めだ。果肉の色は薄いピンク色。イポーの街角からこの辺一帯どこにでもこのポメロは売られているので話の種に試してみよう。

・ユックリン温泉
イポーでしっかり腹拵えをしたら、いざマレーシアの温泉ユックリンへ。ちなみにマレーシアには現在45ケ所も温泉がある。そのほとんどがタイとの国境からジョホールにかけて南北に一本の線を描いて点在している。こんなにあるなんてJalanJalanも驚いた。さて、このユックリン温泉はタンブンの町を通り過ぎて5分くらいの町外れにある。道路脇左手に「Air Panas Resort」という看板が現れそこから細い泥道へ右折。石灰岩とむき出しの赤土だけの少し異様な光景だ。「うーむ、これは間違ったのではないか」と不安になりながらその泥道を泥しぶきを上げないように突き進む。200メートル程行くとそこは突き当たり。そしてその突き当たりには廃墟のような4階建ての建物がひとけもなく佇む。「うーむ、これは本格的に間違ったかも知れない」と思う。蜘蛛の巣とススがこびり付いた入り口には取れかかった「Air Panas Resort」の看板。その下の壁に「オープン、4PM-9PM」とあるが現在のものとは到底思えない。「情報はガセであったか」と30分ほどその建物の前で途方に暮れていると1台のワゴンがやって来た。時計を見ると4時5分。この温泉のオーナー家族であった。「よかった!」JalanJalanは彼らに導かれその廃墟に入った。
建物の向こう側、我々の目の前に現れたのは、草木に一面を覆われた石灰岩に四方を囲まれた鏡のような池と25メートルのプールであった。
これらは全て温泉で、プールもお湯が引き込まれ約40度に保たれている。プールの中には仕切りがあり仕切りの向こうは体を冷やせるように生ぬるくしてある。お湯はあまりきれいとは言えない様相だったが飲むわけじゃないからいいのだとジャブジャブと入る。1秒間に30リットルが湧き出るこのユックリン温泉はユックリン氏が1965年から開発を始めたが、実は初めて開発に着手したのは大正2年9月、日本人の馬場禎誠という人であった。今でもこの温泉を見下ろす岩山の洞窟の壁にはその名前と大きく見事な字体で彫られた「南無妙法蓮華経」の文字が残っている。その後第二次大戦中はここに駐留した日本兵が療養場所としてこの温泉を利用しており、その日付や名前も書かれている。どうもいろいろと複雑で生々しい歴史を経て今なお涌き続ける温泉であるようだ。
木々に囲まれた天然の露天風呂の方は、50度に近いらしい。足を浸けるとピリピリと痛い。しかしJalanJalanは思い切って全身を入れてしまう。一気に入ってしまうのがコツだ。湯を動かしちゃならねぇ。全身が入ってしまうとこれが最高に気持ち良い。少しシビレル様な感じがする。天然風呂の底に身を横たえ、湯気の向こうに広がる風景を眺めていると、これはまさに極楽なのであった。

・宿泊施設
このAir Panas Resortというのは一応「ホテルリゾート」であるが、そういうものを思い浮かべてはいけない。しかし宿泊施設はあるし、部屋は殺風景だがエアコン、清潔なベッドと温泉を引き込んだバスルームもある。入場料大人9リンギ、子供6リンギ。宿泊は1泊70リンギと80リンギの2種類。プールに面しているかどうかで10リンギ違う。そのほかビリヤード台が3台、そしてなんと洞窟をそのまま使った4レーンのボーリング場があるのだ。これには驚くぞ。また、天然の洞窟と沸き上がる熱湯でできたサウナがある。(写真下)このサウナは見てくれは悪いがはっきり言って拍手ものの気持ち良さだった。30分6リンギ。とにかくこのリゾート、コンセプトはよく分からないのだが、1989年に「ヨーロッパ・クオリティ・リゾート賞」でなんと金賞を与えられている。それじゃその「ヨーロッパ・クオリティ・リゾート賞」とは何かと問われてもJalanJalanはよく知らない。
 最後に、30分位かかるが目の前で湧き出る温泉で茹でる温泉たまごを食べてみる。白身がグズグズで黄身がプリンと仕上がる独特の温泉たまご。日本ではカラから直接食べるが、皿にあけて食うのが中国式なのだとオーナーは胸を張って薦めてくれた。常夏の国マレーシアで繰り広げられたなんともシミジミと愉快な秘湯の旅であった。




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