昔むか〜しの事じゃった。クランという町にそれはそれは名医と名高い中国漢方医がおったそうじゃ。でものぉ、その医者が一番大事にしておった一人息子は幼い頃から病弱での、他の子供と元気に遊ぶ事もできなかったそうじゃ。不敏に思うたその医者は何とかしてやりてぇと必至に薬の調合を繰り返したんじゃと。苦い薬をよう飲まん息子にどうやって薬を飲ませるかが悩みの種じゃった。考えた挙げ句にのぉ、息子の大好物じゃった豚肉を骨付きのまんま漢方薬とハーブで煮込んで、それはそれは旨味しいスープを作ったんじゃ。そんで息子は毎朝そのスープと真白い御飯、柔らこぅ煮込まれた豚肉、椎茸を喜んで食べたそうじゃ。おっと、忘れちゃいけねぇ、食事の前後には必ず中國茶を飲ませたんじゃと。するとどうじゃ、おとぎ話のようじゃが、見る見る内に息子は元気になって野原を駆け回ったそうじゃ。その話はあちらこちらで噂となってのぉ、みながその豚肉スープを作って食べるようになったんじゃ。 もうおわかりかのぉ? それがいつからか「肉骨茶」と呼ばれるようになり、華人がほんに好きなスープ料理となったんじゃよ。 めでたし、めでたし...。 クアラルンプールの西、空港よりさらに海側のクラン(Klang)という町で肉骨茶(バクテー)はこうして生まれた。それ故にクランには今でもバクテーの店が多いんだ。今でもそのレシピはほとんど変わっておらず、杞子、玉竹、熟地などの漢方薬を煎じて豚肉と一緒に煮込んで作られる。これらの漢方薬は身体を暖め、胃の働きを良くし、さらに胃の膨張感を取り去る効能があると言われている。 今回は少し違ったスタイルのバクテー屋さんを二店一緒に紹介しよう。数あるバクテー屋の中でもこの二店は"本物の味"を楽しませてくれる。 |
早夜市(Klang)
KLからフェデラルハイウェイを西に向かってひた走る。空港のあるスバンを過ぎて二つ目の「Klang」の料金所を抜けると、右前方に「Jaya JUSCO」の大きな建物が目に入る。最初の出口を左に下りて、そのまま交差点を左に曲がろう。 | ![]() |
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突き当たりを右に回り込んでいくとグランド脇の角にレストラン「早夜市」が簡単に見つけられるはずだ。元々バクテーはインド人のロティチャナイ同様に朝食メニューだから、ここも朝早くから大勢の客で賑わっている。もちろん夜もやってるのでご安心を。 |
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オープンスタイルの気楽なお店(コーヒーショップ)はいつもチャイニーズで満員状態。席に着くとすぐにおばちゃんがオーダーを取りに来る。英語はほとんど通じないが、バクテー!!と告げれば何とかなる。メニューはバクテーしかないんだから。 |
続いておばちゃんが何種類かの中國茶を小さなバスケットに入れて持ってくる。好きなものを選んでからテーブルの上にある急須でお茶を入れてみよう。 | ![]() |
お湯はどこ? 雪国の小さな食堂を思い起こさせるように、テーブルの脇では炭火の上に置かれたやかんがチーチー音をたてている。「いんやぁ〜今日はしばれるのぉ〜」なんて言いながら、アツアツのお茶をすすろう。(笑) お猪口サイズの湯飲みはチャイニーズスタイルで、独特の入れ方、飲み方があるようだけど気にしないし、気にできない。 ともあれ、これで「肉骨茶」の一文字を済ましたわけだ。 |
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調理場ではニコニコ顔のお兄ちゃん達が、骨付き、皮付きで大きな固まりのまま煮込まれた豚肉を、中国包丁で食べやすい大きさに手際良くさばいている。飴色に煮込まれた肉は見るからに柔らかくて美味そうだ。 |
ハーブ、漢方薬と共に豚肉を煮込んだ"命のスープ"を、刻んだ骨付き肉と共にクレイポットと呼ばれる土鍋に入れて再度一煮立ちさせる。 | ![]() |
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骨付きの豚肉の他には、油揚げ、椎茸、そして上にはなぜか生のレタスがのっている。グツグツに煮立った状態で出てくる鍋をアチ〜ッと汗をタラタラかきながら食べるのは何とも南国情緒溢れるってもんだ。(笑) |
バクテーは要するに庶民の味、「ぶっかけ飯」「猫まんま」みたいなものだから、行儀よく食べようなんて思っちゃいけない。御飯にスープをかけながら、そして時折具を楽しみながら、お気楽に食べるのが旨味しい。 | ![]()
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この店の特長は何と言っても、肉が大きくて柔らかい事。脂身の部分も付いているものの、ハーブと共に煮込まれているのでしつこさは感じないし、旨味だけが口に広がる。日本人の感覚からすると野菜がもう少し入っているといいなぁとも思うが、バクテーは「肉料理」だから仕方ないね。 本日のお代は4人前でRM25(1,100円)でした。 |
この店はクランの事務所に通う、うら若き某独身男性「ぷよ」に教えてもらった。その後すっかり病み付きになってしまい、時折無性に食べたくなり車を走らせる。彼は毎朝のようにここで朝食を取っていながら、あのスリムな体型を保っているところを見ると、カロリーは低いようだね。(笑) |
肉骨茶レストラン(Petaling Jaya)
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フェデラルハイウェイからJalan Gasingを左に入ってまっすぐ行ったPJ Old Townの一角にこの肉骨茶レストランはある。オープンスタイルのこの店は看板もなく、店の名前もよくわからない。夕方5時過ぎになると路上にテーブルと椅子が並べられ、暗くなる頃にはいつも店の周りには人が溢れている。 |
席に着いて先ずはオーダーとなるわけだが、ここも英語はほとんど通じない。バクテーしかメニューはないのだけど、クランと違ってこの店はスープの具が全てセパレートされて出てくる。オーダーも具ごとにしなけばならないってわけ。でも人類みな兄弟。何とかなるから面白い。種類はお決まりのポーク、ブラックマッシュルーム(椎茸)、油揚げ、モツ、トン足、等など。 | ![]() |
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やはりオープンスタイルの調理場では、豚肉とハーブで煮込んだスープをベースに、大きなずんどう鍋でそれぞれの具が別々に煮込まれている。ここの特長はそれぞれの具の持つ味を混ぜないで楽しませるところ。ベースは同じスープから最後には微妙に違った味のバクテーがテーブルに出される。 |
クランの土鍋と違い、ここではコーヒーショップにありがちなプラスチックの器に具ごとに分けて盛られる。 それぞれの具ごとに担当が決まっているようで、調理場での作業は心地好いほど手際がよい。 |
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まずは定番のポーク。一口サイズに切られた肉には皮と脂が少しずつ付いていて、しつこくない程度のそのバランスがいい。肉の旨味がスープに出きった出涸らしにもなっていない。そして肝心のスープはと言うと、コクはあるが、あっさりしている。って感じかな。
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左が椎茸、右が薄目の厚揚げ。それぞれの味が適度にスープに馴染んでいて、美味いんだなコレが。必ずオーダーしなくてはいけない二品。 | ![]() |
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左は日本で言う"モツ"。好みだが、臭みは全くなく歯応えもいい。いけるよ、コイツも。チリ(右)を少しずつ乗せながら、ピリッを効かせるとなお美味い。 |
ここでも同じ。それぞれの味を御飯にぶっかけながら味わおう。ポークのスープに少し椎茸を効かせて、厚揚げをほおばるなんてね。 | ![]() |
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クランのスタイルとはかなり違うのがわかった? でもベースの味は同じ。バクテーはやっぱりバクテー。ここが美味い理由はすぐそばに大きなウエットマーケットがあって、新鮮な素材が毎日手に入る事と、人気があるからネタの回転がいいっていう好循環が大きいんだな、きっと。お代はクランとほぼ同じ。4人前でRM28(1,200円)でした。 | ![]() |
どちらも甲乙付けがたい旨味しい店だから、まずは両方試してみるのがいいかも。きっと自分の好みが見つかる事でしょう。どちらもKLの中心からはちょっと距離があるけど、うまいもの食うには足を使わなくっちゃ。マレーシア来てバクテー食べずには帰れないよ〜。さぁ、急げ〜〜。 |
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